2011.10.25
古きよきアメリカの薫り
「モダン・アート,アメリカン―珠玉のフィリップス・コレクション―」
古きよきアメリカの香りに触れられる展覧会「モダン・アート,アメリカン―珠玉のフィリップス・コレクション―」が、六本木の国立新美術館で開催されています。
本展には19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカのアートが数多く出品されていますが、そのころのアメリカといえば、映画なら『シカゴ』や『華麗なるヒコーキ野郎』、あるいは『怒りの葡萄』の世界。チャップリンの喜劇が旋風を巻き起こし、ポンズのコールドクリームが売り出され、ベーブルースがホームランを打ちまくった、そういう時代です。
この絵にも、時代の空気の一端がよく感じられるように思います。
街の一角で手持ち無沙汰な感じで、男が一人。《日曜日》という題からすると、仕事が休みなので、のんびりと過ごしているのでしょうか。でも、男はいくぶん元気がなさそうにも見えますから、もしかしたら失業中の身の上とかかもしれません。あなたは、どう見ますか?
うしろの街並みは木造で、コンクリートと違って、どこかしら温もりを感じさせます。
いまにも、T型フォードが走ってきそうな感じです。
地下鉄がトンネルに入るところを描いているようです。
ニューヨークの地下鉄が誕生したのは、1904年。地面の下を鉄道が走るのは、ホッパーには大都会を象徴するものに思えたのかもしれません。
おそらく、実際にこの場に立つと、「こんな場所を絵に描くの?」というような何の変哲もないところのような気がします。しかし、そこにホッパーは時代性あるいは社会性とでもいうべきものを見出しています。
トンネルの左端をカットした構図が大胆です。
おそらく、ブルックリンブリッジと思われる橋越しにマンハッタンの摩天楼群を遠望しています。雲間から光がカーテンのように射し、まるで街を讃えるかのように照らしています。
作者のブルースは、この光景に何を感じて描いたのでしょうか?
《パワー》というタイトルからすると、未来へ向かって湧き出る力のようなものを感じたのでしょうか。ほかにも、ある気がします。あなたは、どういうものだと思いますか?
本展は、アメリカにおけるモダンアートの展開を見渡すのが狙いのようですが、それに縛られることなく、いろんな見方が楽しめる内容になっていると思います。私には、ヨーロッパの美術とはまた違った、アーリーアメリカンの匂いを残す、素朴で若かったころのアメリカと出会えるところが興味深かったです。
一方、こんなことも思いました。これらの作品がつくられた時代と比べて、いまのアメリカはどうなのだろう、と。いまアメリカでは「99%のデモ」の真っ最中です。拡大する格差社会に国が悲鳴を上げているようにも見えます。昔は単純で素朴だったかもしれないけれど、いまより人々が健全で暮らしやすい社会だったのでは......。
ときにアートは、作品そのものを越えて、背後にある時代や社会まで考えさせます。
ともあれ、時空を越えて、元気だったころのアメリカに浸ってみませんか?
本展には19世紀末から20世紀初頭にかけてのアメリカのアートが数多く出品されていますが、そのころのアメリカといえば、映画なら『シカゴ』や『華麗なるヒコーキ野郎』、あるいは『怒りの葡萄』の世界。チャップリンの喜劇が旋風を巻き起こし、ポンズのコールドクリームが売り出され、ベーブルースがホームランを打ちまくった、そういう時代です。
エドワード・ホッパー 《日曜日》 1926年 D.R.© The Phillips Collection, Washington, D.C
この絵にも、時代の空気の一端がよく感じられるように思います。
街の一角で手持ち無沙汰な感じで、男が一人。《日曜日》という題からすると、仕事が休みなので、のんびりと過ごしているのでしょうか。でも、男はいくぶん元気がなさそうにも見えますから、もしかしたら失業中の身の上とかかもしれません。あなたは、どう見ますか?
うしろの街並みは木造で、コンクリートと違って、どこかしら温もりを感じさせます。
いまにも、T型フォードが走ってきそうな感じです。
エドワード・ホッパー 《都会に近づく》 1946年 D.R.© The Phillips Collection, Washington, D.C
地下鉄がトンネルに入るところを描いているようです。
ニューヨークの地下鉄が誕生したのは、1904年。地面の下を鉄道が走るのは、ホッパーには大都会を象徴するものに思えたのかもしれません。
おそらく、実際にこの場に立つと、「こんな場所を絵に描くの?」というような何の変哲もないところのような気がします。しかし、そこにホッパーは時代性あるいは社会性とでもいうべきものを見出しています。
トンネルの左端をカットした構図が大胆です。
エドワード・ブルース 《パワー》 1933年 © The Phillips Collection, Washington, D.C
おそらく、ブルックリンブリッジと思われる橋越しにマンハッタンの摩天楼群を遠望しています。雲間から光がカーテンのように射し、まるで街を讃えるかのように照らしています。
作者のブルースは、この光景に何を感じて描いたのでしょうか?
《パワー》というタイトルからすると、未来へ向かって湧き出る力のようなものを感じたのでしょうか。ほかにも、ある気がします。あなたは、どういうものだと思いますか?
本展は、アメリカにおけるモダンアートの展開を見渡すのが狙いのようですが、それに縛られることなく、いろんな見方が楽しめる内容になっていると思います。私には、ヨーロッパの美術とはまた違った、アーリーアメリカンの匂いを残す、素朴で若かったころのアメリカと出会えるところが興味深かったです。
一方、こんなことも思いました。これらの作品がつくられた時代と比べて、いまのアメリカはどうなのだろう、と。いまアメリカでは「99%のデモ」の真っ最中です。拡大する格差社会に国が悲鳴を上げているようにも見えます。昔は単純で素朴だったかもしれないけれど、いまより人々が健全で暮らしやすい社会だったのでは......。
ときにアートは、作品そのものを越えて、背後にある時代や社会まで考えさせます。
ともあれ、時空を越えて、元気だったころのアメリカに浸ってみませんか?
<モダン・アート,アメリカン―珠玉のフィリップス・コレクション―>
~2011年12月12日
国立新美術館
http://www.nact.jp/
展覧会ホームページ
http://american2011.jp/
~2011年12月12日
国立新美術館
http://www.nact.jp/
展覧会ホームページ
http://american2011.jp/
国立新美術館
2011.10.25 | CULTURE
藤田令伊
アートライター
大手出版社編集者・雑誌編集長を経て、フリーランスに。アーティストや美術館側からの“川上型”の発信が多いアート情報のなか、鑑賞者の立ち位置を大切にしてアートとファンを橋渡しすべく活動中。その文章や話はわかりやすく、面白いと定評がある。著書『現代アート、超入門!』『フェルメール 静けさの謎を解く』(集英社新書)。