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静かな色のメッセージ「フェルメールからのラブレター展」

2012.01.27

静かな色のメッセージ
「フェルメールからのラブレター展」

京都、仙台と巡回してきた「フェルメールからのラブレター展」が東京で開催中です。

現存する作品が30数点と少ないこともあって、謎めいた魅力が人気のフェルメール。今展では3点が出品されています。なかでも目玉なのが《手紙を読む青衣の女》。今回は、この絵を題材にフェルメールの魅力に迫ってみましょう。

tegami1.jpg ヨハネス・フェルメール 《手紙を読む青衣の女》 1663-64年頃 油彩・キャンヴァス
アムステルダム国立美術館、アムステルダム市寄託
ⓒRijksmuseum, Amsterdam. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)

見るからに静かな絵です。一人の女性が向かって左側を向いて手紙を読んでいるところが描かれています。一見、何気ない風俗画に見えますが、よく見ていくと、さまざまなフェルメールの工夫がわかってきます。

たとえば、使われている色。大きく言うと、この絵に使用されている色は青、白、茶の3色しかありません。たったの3色です。3色しかない風景などというものは現実にはまずないでしょうから、これはフェルメールが意図的に色数を抑えて描いているものと思われます。

色の種類にも注意が必要です。青、白、茶という寒色中心のカラーリングになっています。いずれも"静かな色"です。フェルメールの時代のオランダ絵画では、赤、黄、褐色がカラーリングの主流でした(レンブラントなんかが、その典型ですね)。そのため、絵の印象は厚ぼったい感じになるのが常ですが、この絵は使用されている色の種類によって、そういう感じとは違って、スッキリとした印象になっている気がします。

とりわけ、当時の絵に必出だった赤がまったく使われていない点が異色です。赤は信号の「とまれ」に使われるように強い主張を持つ色ですから、もし赤が使われていたら、この絵の印象はもっと別なものになっていたはずです。赤のような主張の強い色を排し、青や白、茶といった"地味な色"だけに絞った結果、絵の静けさがいっそう引き立てられているように思います。

それから、描かれているモノが少ないということがあります。この絵とよく似たフェルメールの作品に《窓辺で手紙を読む女》という絵があります。こちらは《手紙を読む青衣の女》より4~7年ほど前に描かれたと考えられています。両者を比べてみると、どうでしょうか。《手紙を読む青衣の女》のほうが描かれているモノが少なくなっていて、そのことによって静けさが演出されていることがわかるのではないでしょうか。

dresden1[1].jpg 《窓辺で手紙を読む女》 (ドレスデン国立絵画館)
※「フェルメールからのラブレター展」には出品されていません

さらに、この2枚を見比べると、《手紙を読む青衣の女》のほうが狭い範囲しか描かれていないことに気づきます。これは、よりクローズアップしたかたちで描かれているということです。つまり、フェルメールは空間をカットして描いているのです。その結果、絵の遠近感は圧縮され、まるで望遠レンズで見たときのような視覚になっています。

このように、一見、とりたてて特別なことは何もないように見える《手紙を読む青衣の女》ですが、フェルメールの数々の周到な工夫の結果、本作はフェルメール作品のなかでも、ひとつの頂点をなすものになっているように思います。フェルメールの工夫は、まだほかにもあるかもしれません。ぜひ、実物をじっくりご覧になって、あなたなりの"発見"を楽しんでください。

なお、こうしたフェルメールの描き方について、私なりに研究したことを『フェルメール 静けさの謎を解く』(集英社新書)という本にまとめて出版しました。よかったら、そちらもご一読いただければありがたく思います。

<フェルメールからのラブレター展>
~2012年3月14日
Bunkamura ザ・ミュージアム
http://www.bunkamura.co.jp/index.html
展覧会ホームページ
http://vermeer-message.com/

bunkamura.jpg Bunkamura ザ・ミュージアム

《手紙を読む青衣の女》《手紙を書く女》《手紙を書く女と召使い》の3点のフェルメール作品が出展されるというぜいたくな展覧会です。日本にいながら3点ものフェルメールを鑑賞できるこの機会をお見逃しなく!
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2012.01.27  |  CULTURE
COLUMNIST

藤田令伊

アートライター

大手出版社編集者・雑誌編集長を経て、フリーランスに。アーティストや美術館側からの“川上型”の発信が多いアート情報のなか、鑑賞者の立ち位置を大切にしてアートとファンを橋渡しすべく活動中。その文章や話はわかりやすく、面白いと定評がある。著書『現代アート、超入門!』『フェルメール 静けさの謎を解く』(集英社新書)。

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