2011.12.22
"弟を助けたい"少女サラの想いが
観客の心を揺さぶる『サラの鍵』
今年も残りわずか。どうしても慌しく過ごしてしまいがちなこの時期に、17日に公開された映画『サラの鍵』が初日満席の大ヒットを飛ばし、急遽銀座テアトルシネマではモーニングショーの追加が決定したという。
昨年の東京国際映画祭にて最優秀監督賞と観客賞のW受賞を果たし、業界内でも評判がよく、私自身ずいぶん前から気になっていた作品だ。
やっと先日拝見できたのだが・・・その評判に納得。私は2時間あまりの間、スクリーンに釘付けで、そのストーリー構成の巧みさと予測できない展開、そして何よりヒロインのジュリアともうひとりの主人公サラの人生に惹きつけられっぱなしだった。
時代は現代。夫と娘とパリで暮らすアメリカ人女性ジャーナリストのジュリアは、夫の祖父母から譲り受けたアパートのかつての住人が、1942年にパリで起きたユダヤ人迫害事件でアウシュビッツに送られたユダヤ人家族だったということを知る。
1942年の事実を知り驚く若きジャーナリストたち。ヒロインのジュリアは以前からこの問題に興味を持っていた。
時代が変わり1942年、フランス警察による突然の検挙により、そのユダヤ人家族のひとり、少女サラは収容所に送られる。その際、自分の弟を守るために彼を納戸に隠して。すぐに戻って来られると思ったのだ。しかし、サラ一家はまた別の収容所へと連行されてしまう。その途中、どうしても弟を助け出すために脱出をはかるサラ。果たして、弟は生きているのか。
競技場に一斉収容されたサラと両親。弟が隠れた納戸の鍵を握って放さないサラは、脱出の機会を狙うが・・・。
その真実を追うために、現代に生きるジュリアはリサーチを始める。だんだんと事実が明らかになるにつれ、人生の岐路を迎えていた彼女自身にも大きな影響を及ぼすことになる・・・。
私は恥ずかしながら知らなかったのだが、パリで1942年に起きたユダヤ人迫害事件"ヴェルディヴ事件"とは、ナチス占領下のパリで、仏警察が1万3000人のユダヤ人を逮捕し、その殆どが死に追いやられてしまった痛ましい出来事。フランスの暗部とも言われている。
手がけたのは、パリ生まれのジル・パケ=ブレネール監督、37歳。(若い!)「国家が迫害に加担した事実をいつかは描かなければいけないと思っていた」とコメント。
ここでは、屋内競輪場〈ヴェルディヴ〉にユダヤ人たちが収容される様子や、親と子どもたちが引き離されていくシーンも描かれ、恐怖におびえるサラの表情が私の心を痛ませた。
しかし、驚くべきことにサラは弟を何とか助けるために、あらゆる知恵を使って脱出しようと試みる。この状況下で、弟を助けようとする彼女の強い意志に心震えずにはいられない。スクリーンに映るまっすぐな瞳が私の脳裏にいまだに甦るほど。
本作は監督自身も認めるとおり、サスペンス色が強くなっている(歴史的事件を扱っているだけに作品が重たくならないようにという配慮だそう)。ので、あまり今後の行方に言及するのは控えます(笑)。
とにかく、サラは生き残れるのか、弟はどうなっているのか・・・その結果を早く知りたくて、私は前のめりでスクリーンにかぶりつき状態(笑)。
ジュリア役には、『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞主演女優賞の候補となったクリスティン・スコット・トーマス(51)。ジュリアは自身とよく似ていると語っていた。
一方、ジャーナリストのジュリアも目をふせたくなるような事実と向き合いながらも、決して逃げようとはしない。その事実が自身のファミリーを傷つける結果となっても、真実を知ろうとする。私だったら旦那さんのお父さんに事実を追求できるだろうか・・「もうお歳だしそっとしておいた方が」・・・なんて思ってしまいそう。
しかし、ジュリアには前に進まなくてはならない理由があった。ここでは、それにも触れないけれど、本作を観て大きく感じたことがひとつ、ある。
それは、真実を知ることで人間は前に進める。ということだ。
これって何だろう。人間の本能? それが直接、自分に関わりのないことでも知ることで次の一歩に進める大きなきっかけとなる。
黄金色の草原を走り抜けるサラ、その運命は過酷でもほとばしる生が眩しい。深刻なテーマだが、はっとさせる美しいシーンも多いのが魅力。
プライベートな話で申し訳ないのだが、先日私が行ったひとり舞台では、3.11で被災された方々が私に話してくださったことを、そのまま言葉にして演じた。すると、数多くの方々から「現地の本当の声を伝えてくれてありがとう」といたく感謝された。その事は、驚きだった。多くの人は、メディアを通じてではない真実を欲していたのだった。
真実を知ったところで、何かが大きく変わるわけではない。ヴェルディヴ事件も3.11の出来事も悲しいことに現実として大きな爪あとを残したままだ。
しかし、その真実を知った人々は確実に心の中で何かが変わり、その人の人生に大きな影響をもたらす。まさにジャーナリスト、ジュリアのように。そういう人が増えれば、少しずつ世界の未来は光の方へと向かうのではないか、と思った。
私はこれまで、戦争や大量虐殺、原発・・・なんだか怖い社会問題は目をそむけてきた。生まれてきたからには、なるべくキラキラしたファンタジックな世界で過ごしたい。でも、そうじゃないんだな、とやっと最近わかり始めた。キラキラした人生を歩みたいなら、過去の事実に目を背けてはいけないんだ。たとえ自分と関わりのないことであっても。
サラの人生は決してすべてが暗闇ではない。脱出のために、いろんな人が助けてくれる。時代を超えてジュリアが彼女の存在を見つけてくれる。目をふさぎたいと思える過去にも、一筋の光はある。だから、私はこれからも目をそむけないでいたい。そんな事を強く感じさせてくれる作品に出会えたことを、心から感謝したいと思った。
●監督/ジル・パケ=ブランネール
●出演/クリスティン・スコット・トーマス、メリュシーヌ・マヤンス、シャーロット・プートレル、ニエル・アレストラップ、
●2010年、フランス映画
●配給/ギャガ
●111分
http://www.sara.gaga.ne.jp/
銀座テアトルシネマ(Tel. 03-3535-6000)ほかにて公開中。
mic
シネマスタイリスト・女優
女性誌やwebなどでの映画コラム執筆から舞台挨拶の司会、映画番組(TV、ラジオ)の出演等、シネマの世界で幅広く活動中。一方で自作自演のひとり芝居やポエトリーリーディングの上演など女優の顔も。
portrait : ©JUNICHI TAKAHASHI