2009.01.06
アムステルダムに現われた、
クリストフ・コパンスの "アトリエ"
2009年最初のコラムです。新年にふさわしい、すてきな展覧会を紹介しましょう。会場は、オランダ、アムステルダムにある「Platform(プラットフォーム)21」。
ベルギー王室のための帽子デザインでも知られ、東京にもブティックがあるファッションデザイナー、クリストフ・コパンス。彼の最新活動を知る「No Reference -- Christophe Coppens」は、この注目デザイナーのクリエイティブマインドを、たっぷりと堪能できる。

このプロジェクトをひとことで「展覧会」とくくってしまうのは、どこかもったいない。というのも、会場全体が"クチュール・プロセス"であり、コパンスの"アトリエ"になっているから。
ブリュッセルにある彼のスタジオで準備された新作アクセサリー・コレクションを、「この会場で仕上げる」というもの。そのために、11月の開幕から2カ月の間、展覧会の会場で制作が進められている。会場にいるのは、白衣に身を包んだ女性たち......。

通常なら完成まで秘密にされる制作プロセスを、あえてオープンにしてしまう大胆な企画。しかも、コパンス本人も何度か会場を訪れては、ワークショップも催すという熱の入れようだ。
そう、これは彼にとって実に大切なプロジェクト。世界的なデザイナーが活動の出発点に立ち戻る気持ちで、純粋に制作に向きあってつくられる新作アクセサリーの数々は、2月、パリのオートクチュール・コレクションで披露されるという。

私が訪ねた日は、嬉しいことに、コパンス本人が会場にいる一日だった。
女性たちと同じく白衣を粋に着こなした彼は、制作された作品に丁寧に目を向けながら、針や糸を手にした女性たちと会話をしている。
天井からは幾本もの糸。繊細なドレープが美しいペールトーンのレース。「この後、一体どうまとめられていくの?」と興味をそそられる不思議なフォルムのオブジェが、テーブル上には並んでいる。
美しいけれど、それだけでは終わらないのが、奇才コパンスの世界。騒音とは無縁のしんとした会場で、彼らの「手」は、決して止まらない。
すべてが進行形。どれもがワーク・イン・プログレス。この企画、なんて楽しいのだろう。第一線で活躍するデザイナーのイマジネーションを、リアルタイムで呼吸できるのだもの。
ところで、Platform21は、コンセプトのしっかりとした独自のプロジェクトを様々に展開している注目すべき組織だ。空間そのものもユニーク。かつてここは教会だった。
建物をリノベーションすることで、1階にレストラン、2階に展覧会やワークショップのスペースを新たにオープン。教会の円形空間はそのままに、そのためだろうか、独得の空気が充ちている。
冬空に浮かび続ける宇宙船さながら丸い部屋で、デザイナーの世界が徐々にかたちになっていく。
「この宇宙船に、このまま何日も同乗することができたなら、どんなに楽しいだろう」。
時計の針を気にしながら窓の外に目を向けると、いつの間にか、雪......。
降り始めた雪につつまれた会場で、ペールトーンのオブジェはそれぞれに、不思議な生命力をたたえているようだ。デザイナーのイマジネーションと詩心とが、時間そのものを、生命力を、ゆっくりと編み上げているようにも感じた。
デザイナーが自身の創造力に改めて挑もうとする意欲的なプロジェクトに出合えると、なぜだかこちらまで元気になってくる。彼らのとてつもない想像力は、いつも私をワクワクさせてくれる。
今回もまた、その幸せを実感しつつ.........私たちをいつも驚かせてくれるクリストフ・コパンスが改めて試みるクチュール・プロセスの仕上がりは、やはり知りたいところ。会場で目にしたあのオブジェ、どのようなアクセサリーとして完成するのかしら?!(気になる、気になる......)。
Photo: Javier Barcala(写真すべて)
Courtesy of Platform21
クリストフ・コパンスについて
http://www.christophecoppens.com/
日本の直営店の情報など
http://www.hpfrance.com/coppens/
「No Reference -- Christophe Coppens」は1月18日まで
http://www.platform21.nl/
川上典李子
ジャーナリスト
Noriko Kawakami, journalist
デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)など。