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ジェニファー、エルンスト。「うつわ」に広がる風景

2009.02.23

ジェニファー、エルンスト。
「うつわ」に広がる風景

「U-Tsu-Wa/うつわ」展(21_21 DESIGN SIGHT)の紹介、続きます。
今回はジェニファー・リーとエルンスト・ガンペールの作品。引き続き、皆様を会場にご案内する気持でお送りしましょう。

kawakami1.jpg ジェニファー(左)とエルンスト。ジェニファーの家族がロンドンから、エルンストの家族が北イタリアから来日。穏やかでにぎやかなオープニングとなりました。

まずはジェニファー・リーからご紹介します。
地理学、地質学、物理療法学などを勉強していた彼女。エジンバラの美術学校で陶芸とタペストリーを専攻した後に陶芸の道へ。1983年、ロンドンに自身の工房を構えました。

ジェニファーは制作過程でろくろを使用しません。すべてハンドフォーミング(手びねり)で形づくっていきます。釉薬も用いずに、土(陶土)に酸化物などを混ぜ合わせて、一度だけ焼くことで作品を完成させます。

「先史時代の壷に興味があるの。南アフリカの古代の壷は、焼き上げる温度はかなり低いけれど、私と同じく酸化物を粘土に混ぜて焼いているわね」

「古代のものでは、他にも様々なものに興味があるわ。古代エジプトの人形、ミイラ化したネコ、とがりネズミの棺桶(かんおけ)......」

kawakami2.jpg ジェニファーの作品です。Photo: Hiroshi Iwasaki / STASH

「20年ほど寝かせた」という酸化物を混ぜた粘土も用いて、美しい色彩や柄を表していたりするジェニファー。その過程はまるで化学者。実験を重ねながら独自の表情を探究します。

来日したジェニファーから、これまでに足を運んだという世界各地の話を聞く機会がありました。エジプトやインド、あるいはサハラ砂漠の話......。アメリカを6カ月かけて旅したときには、グランドキャニオンの風景に魅了されたそうです。

その話を耳にしながら、私は、初めて彼女の作品を目にしたときに、アリゾナで出合った広大な大地を思い描いたことを思いだしていました。作品が置かれていたテーブルが、アリゾナのペインテッド・デザートへとそのままつながるように感じたのです。

そのことを、ジェニファー本人に伝えてみました。
「あなたの作品を前にして、広大なアリゾナの、繊細な色彩の表情を思いだしたの」
「そうなの......! 直接の影響を受けているわけではないけれど、私のどこかに、きっとそうした風景が蓄積されているのだと思う」

kawakami3.jpg ジェニファーの作品から。色彩の層は表面に描いた柄ではなく、陶土を削って埋め込むようにして表現されています。「光の輪のような効果を生むよう、神経を払います」と彼女。なめらかな表面。「感触も大切」と本人。Photo: Hiroshi Iwasaki / STASH

さらに彼女が興味を持っているのは周囲の様々な景色、また、そのディテールです。

「錆ついたり風化したり、朽ちていったり、時とともに風景は刻々と変わっていくわ。でも、土を加えて調整することで、永続するイメージをつくることができる。
それは瞬間をとりだすようなもの。瞬間をカプセルに包むようなものかもしれないわね」

Jennifer1.jpg「海岸に打ち上げられたように、錆びついた缶を見つけたの」。興味を持っているテクスチャーだそうです。Photo: Jennifer Lee

ひとりの作家が出合った風景や時間が、これらの作品には込められています。

Jennifer2.jpg「ラクダが大好き。ラクダのオブジェも集めていて、200を超えるわ!」。そういえばジェニファーの作品って、ラクダのコブのような曲線ですね。Photo: Jake Tilson

kawakami4.jpg

少々長くなりますが、エルンスト・ガンペールもご紹介しましょう。木の作家です。

kawakami5.jpg エルンスト。プレス・プレビューのあい間に。

ドイツ、ミュンヘンに生まれたエルンスト。現在は北イタリア、ガルダ湖近くの村が拠点です。妻のウルリケとともに古い建物に手を入れ、工房兼自宅の環境を整えたそうです。

彼の作品では、乾燥させていない生木(living tree)が用いられます。
木工ろくろで表面が削られ、様々な工具を使ってフリーハンドで整えられる木の姿は、その後、木そのものの乾燥に従い、姿を変えていきます。最初は左右対称だったフォルムはやがてアシンメトリーに。表面に割れ目が生じることもありますが、それもまたエルンストの作品の魅力。彼は言います。

「木を加工するのではなく、その木が本来持っている性質をとりだしているんだ」
「僕の作業は、木に従うようなもの」

とはいえ、どの木のどの部分を、いかに切り出すのかという判断が重要。そこに、「20年間、木と対話をしてきた」エルンストならではの手法が生かされているのです。

kawakami6.jpg Photo: Hiroshi Iwasaki /STASH(次の写真も)

灰色がかったオリーブからつくられたうつわ。経年変化で内部がおもしろい表情を見せる銅ブナを素材にしたうつわ。あるいはオーク、ブナ、プラタナス......。

kawakami7.jpg オリーブの木を用いた作品。こうしたグレーの色が大好きだそう。

「どの木も、かつて大地にあったということが、大切なことなんです」
「樹齢200年の樹木なら、200年の間、木の片側が風を受けてきたということ」

彼らの作品は、たとえ小さなものでも壮大な景色を感じさせます。それを考えるヒントが、ジェニファーが滞在中に口にしていた、(彼女が「大好き」だという)映画監督、アンドレイ・タルコフスキーの次の一文かもしれません。

「アーティストがテーマを探すという考え方はまちがっている。そうではなく、あるテーマがアーティストのなかにまるで果実のように成長していき、やがて自分を表現せよ、と要求するのだ」(『Sculpting in time』)

そう、二人の作品には、彼らが出合ってきた様々な風景が宿っているのです。
さらには、大地や樹木が過ごしてきた長い時を二人が受けとめ、それを生かすように素材に向き合っているからこそ、作品のひとつひとつから、宇宙のような大きな広がりを感じるのかもしれません。

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