2009.05.08
名デザイナーは名シェフ。
ミキ・アストリのテーブル
デザインとは何でしょう? 最終的にまとめられる表現はもちろん大切ですが、それだけではなく、目には見えない部分、そう、彼らの生活観がまず重要。ひとりのデザイナーの世界そのものが、私の取材の対象です。
気になるひとりが、「食」「食卓」「空間」の密接な関わりをふまえた活動を続けるMiki Astori(ミキ・アストリ)。ドリアデの品々を多数デザインしている彼は、先日のミラノデザインウィーク(ミラノサローネ)の際に、こんな楽しいテーブルを披露してくれました。
design: Miki Astori, production: driade
イタリアの家具メーカー、ドリアデから発表されたばかりの新作「MEZ」。中央のレイジースーザン(回転部)が特色。入荷未定(ヤマギワ広報室 TEL 03-3253-2132)
チャイニーズの食卓さながらレイジースーザン(回転部)を中央に持つデザインは、西洋の食卓には珍しいもの。「オリーブオイルをほかの人に渡すときとか、くるくる回して、楽しいでしょう?」。白い天板は「クロスをかけなくても美しいように......ね!」。
天板の柄となっているドットが床に光の絵を描きます。これぞミキ・アストリのデザイン! 食の時間を大切にする人物ならではのテーブル。温かさ、やさしさを感じます。

「お菓子をいかが?」。ヴィア・マンツォーニにあるドリアデのショールームでの取材時にも、このレイジースーザンが大活躍。
実は、インテリアライフスタイル誌『LORO』の夏号(6月下旬発行予定)のために、ミキ・アストリの取材を続けています。昨年には、トスカーナにある彼のカントリーハウスも訪ねました。都市の生活と、豊かな自然のなかでの時間。その双方を満喫しながら、日常の品々を考える......。そうしたデザイナーの生活とそこから生まれるデザインについて、現在、まとめているところです。

昨年秋、カントリーハウスでのランチタイム。ミキが所有するオリーブ畑の収穫という多忙な1日の間に、手ぎわよく準備してくれたスープとパスタ(それも大人数分)。テーブル上には自家製オリーブオイル。こちらも美味で、友人たちの手が次々と伸びていました。


上の3枚は先日のミラノ、黄昏時の撮影の際、準備の間に小型カメラでスナップ。ダイニングテーブル上の食器や赤いガラスの器はミキのデザイン。ドリアデの品々です。
そして先日は、ミラノ、都市の暮らしの撮影でした。テーブル上にはミキがデザインした食器も登場。さらには彼の家そのものが興味深い。ルネサンス期にまで遡るという柱に、18世紀のレンガ壁。時間の層が、空間をかたちづくっています。その後、長く家具工房として使われていた空間を彼自身がリノベーションして、住まいに。

料理好きであることがひと目でわかるキッチンです。鰹節も使いこなしています。料理の隠し味に本だしを駆使することもあるそう。Miki Astori本人の姿はテスト撮影中に横からスナップ。
ミキと「友人を招く初夏のディナー」のテーブルセッティングを考えました。登場するオリーブオイルは自家製です。器ももちろん彼のデザイン。食の楽しさを満喫し、人をもてなす心を忘れないデザイナーによる品々は、セッティングの場にとけ込みながら、さらに魅力を放ちます。使われることで魅力的であること。デザインの重要な一面です。
冒頭で紹介したドリアデの新作テーブルの背景にも、ミキ・アストリというひとりの「生活者」がいるのです。デザインとは、単に表層的なかたちや色彩を決めることではありません。大らかに、積極的に生活を楽しむなかから、ふっと浮かびあがる何か......。その「何か」こそが重要なメッセージなのだと、ミキ・アストリに会うたびに思います。
photo (C) Noriko Kawakami
川上典李子
ジャーナリスト
Noriko Kawakami, journalist
デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)など。