2010.05.24
木、ガラス、紙、皮革......
触れること、知ること
マテリアル、そしてテクスチャー。前回の「木」に続き、世界の若手デザイナーたちがとり組む「素材探究」の様子を見てみましょう。2回続きで紹介した「ポスト・フォッシル:未来のデザイン発掘」展の出展作品に、おもしろい事例が含まれています。
Photo: Noriko Kawakami
アートスクールを卒業したばかりの若手も含む20代、30代のデザイナーたち。意外や意外、と思われる読者も多いかもしれませんが、なんとも身近な素材に目を向け、それぞれの可能性をあれこれ探っています。手に入りやすく、実験を重ねやすいのは身近な素材だったりするのでしょうが、ただそれだけの理由でもなさそう。
日々使っていたり、すでに慣れている素材であるからこそ、デザイナーの知恵や発想の見せどころ。「高級食材がなくたって、工夫し、腕がよければ、おいしい料理をつくることができるはずさ!」......なんていう元気な声が聞こえてきそうです。
その腕をふるうのは、彼らのワークショップ(工房)です。ノコギリ、トンカチを始め、「実験道具」が所狭しと並んでいるのが通常。最終形にたどりつくための基礎がため、デザイナーの自主学習ともいえるリサーチの時間がたっぷりと費やされているのです。
「ポスト・フォッシル」展会場からディック・ファンホフの「グラスワーク」。ロイヤル・レーダムの吹きガラスにクルミの木の持ち手。異なる質感が見ごとに融合している。
Photo: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
昔からある素材のひとつ、ガラスの有機的なおもしろさに着目するデザイナーもいます。熱で溶かすことで生物のような性質を見せる素材の特色を、地元の伝統的なメーカーとのコラボレーションも活かしながら、プロダクトにとりいれようとする試みです。
工業デザインのほかグラフィックデザインも学んでいるピケ・ベルグマンスの「クリスタル・ウイルス」。家具などにウィルス(ガラスの塊)を感染させてしまうという発想。
このガラスもロイヤル・レーダムの職人によるものです。
Photo: Noriko Kawakami

先日のミラノサローネで発表された、ピケがスタジオヨブとコラボレーションした作品。題して「ワンダー・ランプ」。
そして皮革。日本人の私たちにはまずは紙や木が親しい素材となるのかもしれませんが、西欧のデザイナーには皮革も古来親しんできた素材、多種多様な工夫でプロダクトに活かすべく試みられています。下の写真は子羊の皮革のランプシェード。内側を見ると部分的にざらついていたりするのですが、その不均質さがこのデザイナーには魅力のよう。
あるいは紙も、可能性が様々に試みられています。そう、ナチョ・カーボネルの洞穴のようなあのベンチも紙が素材、ダイレクトメールなど、日常の生活で入手できる紙を溶かして造形に活かしています。
子羊の皮革を用いたペペ・ハイコープの「レザー・ランプシェード」。縫い目が見えたり、味があります。空間に広がる皮革の匂いもまたこのランプシェードならでは。
Photo: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
ナチョ・カーボネル「エヴォールーション・コレクション」。DMなど、身近な紙をペースト状にして、金網にはりつけています。こうした作品をつくってしまう彼、どんな時代が来ても、前向きな発想と手作業を活かして、生き抜いていくのだろうなあ......!
Photo: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
素材づくりから生産、さらには使い手との間がブラックボックス化しているのが一般的になっている現在。素材のリサーチから最終形に至るプロセスをデザイナー自らが探るという試みが、各自の考え、各自の手法で続けられているわけです。
彼らはまた、太古から現代まで、変わらぬ人間の行為にも目を向けています。
一例が、「編む」ということ。BLESS(ブレス)は表面コーティングの巨大な編み糸でハンモックをつくり、韓国の注目作家、クァンホー・リー(男子)は、電球からそのまま伸びた電気コードを編んでアーティスティックなランプシェードをつくっていました。
見慣れた素材でも、視点をずらしたり、発想を転換しながら、メッセージを発信。時に、よい意味でのはぐらかし(?)があったり、ユーモアを忘れていないのも彼らの活動の特色です。楽観視できない資源の問題、社会の現状にも目を向けながら、ただ悲嘆にくれているだけでなく、提案する。それこそがまさにデザインの力であり醍醐味。
柱の間の巨大な編み糸が、ブレスの「ファット・ニット・ハンモック」。
Photo: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
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クァンホー・リーの「ノット」シリーズ。電気コードを編んだランプシェード(上)とPVCチューブを編んだソファ。幼い頃には母親が編んだセーターを着、祖父がつくったおもちゃで遊んでいたという彼。必要な物は自らつくる、との考えを持っています。
Photo: Courtesy of Kwangho Lee
「そういえば、最近、つるんとしたものしか触ってないかも......!」。会場で、デザインを学んでいるという学生のグループと話をしていたとき、そんな言葉を聞きました。なめらかな表情、それもキメ細かく均質で繊細な表情は日本のデザインが世界に誇るべきすばらしい点。と同時に、素材の質感ってそれだけに限りません。ざらざら、ゴツゴツ、しっとり、パリパリ、シャリシャリ、ふわふわ......等々。
そして、それぞれの素材の性質そのものも奥深い。「素材に触れ、素材を知って! ガラスを知らなければ、グラスはつくれませんよ」。「Pen」次号(6/1発売)の特集『デザインの教科書。』の記事にも書いたところですが、展覧会ディレクターのリー・エデルコートが4月の東京滞在中、大きな声で述べていた言葉が今も私の頭の中で響いています。
なかでも彼女がくり返していた言葉は......「Use your hands(手を使って)!」
手前は羊毛を圧縮したロネル・ヨルダンの「プランター」。羊毛の養分が植物に供給される。根の成長とともに徐々に分解されていく。奥はバス・ファンデルフェールの「バイオプラスチック・プランター」。生分解性プラスチックを用いた若木保護プランター。
Photo: Masaya Yoshimura, Courtesy of 21_21 DESIGN SIGHT
「ポスト・フォッシル:未来のデザイン発掘」展
6月27日まで、21_21 DESIGN SIGHT、火曜日休館。
http://www.2121designsight.jp/
6月5日に館内で皆川 明さん(mina perhonen)のトークあり。
前回記事で紹介した「木の人」ピーター・マリゴールドも来日決定、
デザイン界のピカソ、ナチョ・カーボネルも6月下旬、ついに来日です。
詳細は上記ウェブサイトにて。
川上典李子
ジャーナリスト
Noriko Kawakami, journalist
デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)など。