2010.07.27
暑さを忘れる想像の世界に。
今回は舞台のお話などを
ヴァケーションの時期ですが、私はもうしばらく通常営業です。猛暑をのりきるには、まずは美術館やギャラリーで心のエネルギーチャージ。そして、静かな空気が心地よい図書館に(夏休みだからか、行きつけの図書館はここのところほぼ満席なのですが......)。
映画館、そして劇場にも......ことば、声や動作、衣装、舞台美術などの総合的な表現となる演劇も大好きです。スペクタクルな舞台はもちろん、舞台と観客席が近い小劇場で、最小限の舞台装置が様々な世界を表わしていく様子を観るのも楽しい。
こども時代、『ヘンリー5世』を観て、冒頭からガツンと"やられた"ことをよく覚えています。「説明役」が登場し、「ここにフランスの広大な戦場、無数の大軍......その様子を観客の皆さんの想像力で(On your imaginary forces work.)」と説明するプロローグ。
その20数年後、ロサンゼルスで『セブン』など多くの映画のタイトルデザインを手がけるカイル・クーパーに取材したとき、彼の当時の会社名「Imaginary Forces」(なんてすてきな名前!)がそのプロローグからきていると聞き、感激したことがありました。
イマジネーションのスイッチをおしてくれ、猛暑などウソのように、壮大な歴史物語のなかにいる気分にもさせてくれる場。「デザイン・ジャーナル」読者の皆さんに、もうひとつの「創造」の世界、今回は舞台の話題です。
『星の王子さま』レパートリーシアターKAZE、 2010年3月の公演から。
Photo: Yoshinari Asano, Courtesy of KAZE
今年春、オリビエ・コント率いるフランスの「スーフルール」と東京演劇集団風(KAZE)の柴崎美納さんを、エルメスジャポンの方に紹介していただく機会がありました。
スーフルールとKAZEはいま、あるプロジェクトを準備しているのです。詳細は改めて紹介したいと思いますが、桜前線にあわせた「ささやき」プロジェクトという詩的なもの。桜の季節......はい、来春に向けた計画です。(http://www.kaze-net.org/sakura)
その内容が気になり、柴崎さんとやりとりを続けさせていただくなかで、最新舞台の案内をいただきました。KAZEは、拠点とする劇場で専属の役者がレパートリーを上演するレパートリーシアター。毎年3月には『星の王子さま』。他にもシェイクスピア作品やチェーホフ作品......などなど。
先週、私が観たのはベルトルト・ブレヒト1939年の作となる『肝っ玉おっ母とその子供たち---- あとから生まれてくる人たちに』でした。10年来上演しているという彼らの代表的なレパートリー作品で、中学校や高校での上演もされているそうです。
私にとって久しぶりのブレヒト作品。楽しみました。舞台は17世紀、何十年も続く宗教戦争のなかで生きる人々を描いています。舞台を動くのは、たくましい母親の行商の荷車。ラストシーンでは雪が舞い、気分はすっかり17世紀、厳寒の中部ドイツ......。
『肝っ玉おっ母とその子供たち---- あとから生まれてくる人たちに』(上演台本・演出:浅野佳成)。娘カトリンに向けられた兵士の銃......手に汗にぎるクライマックスシーン。Photo: KATSU Miyauchi, Courtesy of KAZE
ラストシーン。最後にブレヒトの詩をもとにしたオリジナルの詩も。「あとから生まれてくる人たちよ/もう人と人とが戦う戦争は/あなたの時代ではなくなっているのでしょうか?/殺しあったり だましあったり いじめたり/もうおびえながら暮らす人など/きっと誰もいないと思います」。Photo: Setsuko Hara SYH, Courtesy of KAZE
次回公演はウジェーヌ・イヨネスコの名作『瀕死の王さま』。9月1日〜5日、KAZEとウジェーヌ・イヨネスコ劇場(旧ソ連邦の国、モルドバ共和国)との共同製作です。
余命わずか1時間半と宣告された王さまの、混乱の悲喜劇。ベケットやアダモフと並ぶフランス不条理劇の巨匠イヨネスコが描く「人」の姿が、たっぷりと見えてくることでしょう。イヨネスコ作品を数多く演じたペトル・ヴトカレウが今回の演出を手がけ、舞台美術と衣装はステラ・ヴェレブチュアヌ。様々な面で楽しみです。
私はまだ観たことのないイヨネスコ作品ですが、この作品を他の劇場で観た友人が以前「わからないところが......」と言いつつ楽しんでいたのを思いだしました。なんでもすぐにわかってしまう(か、そんな気持になってしまう)時代に、不条理な物語に出会い、その世界に浸る時間っていいなあ。そもそも「人」ってそんなに単純じゃないのだから。
『瀕死の王さま』ポスター。Courtesy of KAZE
とろけそうなほどの暑さから、時空を超えるように、想像の翼を広げられる世界に。
そんなひとときも楽しみながら、皆さま、どうぞひき続き元気な夏を。
「瀕死の王さま」9月1日〜5日
東京演劇集団風
http://www.kaze-net.org
川上典李子
ジャーナリスト
Noriko Kawakami, journalist
デザイン誌『AXIS』編集部を経て、94年独立。ドムスデザインアカデミーリサーチセンターの日伊プロジェクトへの参加(1994-1996年)を始め、デザインリサーチにも関わる。現在は、「21_21 DESIGN SIGHT」のアソシエイトディレクターとしても活動。主な著書に『Realising Design』(TOTO出版)など。