2009.05.07
アウトロー、イーストウッドのフェミニズム
今年、79歳になる巨匠クリント・イーストウッドが主演&監督を兼ねる新作『グラン・トリノ』は、彼の集大成といってもいいほどの味わい深い傑作です。最初に見たときは、自分の人生を投影して、この脚本を書かせたのではないか?と思ったくらいイーストウッドのあらゆる要素が結集した作品です。実際は、若い脚本家から持ち込まれたスクリプトですが、「一言も変えないで映画化しよう」といったほど、イーストウッドが気に入ったとのこと。
『グラン・トリノ』は、妻に先立たれたばかりの老人ウォルト・コワルスキー(イーストウッド)が主人公。偏屈で人種差別主義者の彼は、いつの間にかアジア系移民の町となってしまったことに憤りを覚え、ときたま会う息子や孫たちにも疎んじられている。リタイアするまでフォードの自動車工場で働き続けた彼の唯一の趣味は、1972年に自分でステアリング・コラムを取り付けたヴィンテージカー"グラン・トリノ"を磨くことだけ。

『グラン・トリノ』4月25日(土)丸の内ピカデリーほか全国ロードショー (C)2009 Warner Bros. Entertainment Inc. and Village Roadshow Films (BVI) Limited. All Rights Reserved.
物語は、そんな彼が、"グラン・トリノ"を盗みに入ったタオという隣の家に住むモン族の青年との交流を描く。後半の展開は、『許されざる者』を彷彿とさせる。傷ついたモンの姉スーの復讐のため立ち上がるウォルト。
しかしながら、驚くべきその後の展開は、ささやかれているイーストウッドの俳優としての引退を想起させます。
イーストウッドは、もともと『ローハイド』やマカロニ・ウェスタンで頭角を現した俳優です。その後、タフでクールでムチャクチャな刑事キャラハンを演じた『ダーティ・ハリー』でスターとなりました。
つまり、目には目を。力任せで相手をねじ伏せてきた男。アウトロー的なアンチ・ヒーローでありながら、同時にアメリカ的でもあったことがイーストウッドの人気の理由のひとつだったことは間違いないでしょう。
女性に関しては、男尊女卑の裏返しともとられかねないほどフェミニスト。それは、虚勢を張っていた初期の頃より、晩年の作品で顕著です。『許されざる者』では、顔を傷つけられた娼婦のために、無法者を追いかける。いや、『ブラッド・ワーク』で主人公(イーストウッド)の心臓移植を手掛けたのが女医(アンジェリカ・ヒューストン)であったことを思えば、フェミニストどころか、女性上位が好きなMなのでしょう。
『グラン・トリノ』でも、スーを相手にそんなMぶりをちらちら垣間見せています。賢くて弁の立つスーは、ときに銃でストリート・ギャングを脅しつける人種主義者の老人に恐れをなすどころか、まるで「可愛い」とでもいいたげに、完全におもちゃにしていますね。
ちなみに、私生活では結婚、離婚を繰り返し、7人の子供がいるイーストウッド。現在の妻も20歳以上年下ながら、いかにも"手なずけてくれそうな"セクシーな肝っ玉母さんタイプです。
それにしても、今回のラストは、胸を打つ者があります。頑なまでに自分流を貫き、生きてきた人生の有終の美をどう飾るか。その引き際の美学。イーストウッド、カッコよすぎます!
立田敦子
映画ジャーナリスト
大学時代から始めたライター&エディター業を開始、徐々に映画ジャーナリストの道へ。映画祭や海外出張などでインタビューする映画人は、年間200人ほど。フィガロジャポンやキネマ旬報等に映画評、コラム、インタビューなどを執筆。