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読めば読むほど発見がある14のストーリー。ロベルト・ボラーニョ『通話』

2009.09.17

読めば読むほど発見がある14のストーリー。
ロベルト・ボラーニョ『通話』

『センシニ』。この短い物語に、私は強く惹かれる。
 初めて触れた、ロベルト・ボラーニョの作品。短編集『通話』には、14のストーリーが収められている。『センシニ』は、その巻頭に置かれた。どれも味わい深く、読めば読むほど発見があるが、私は『センシニ』がいちばん好きだ。

kibe1.jpgロベルト・ボラーニョ『通話』

 28歳の"僕"と、間もなく60歳の作家センシニが、文通をする。チリ人の"僕"はスペインのジローナ郊外に住み、生活は貧しい。生活費を得られればと、地方都市が主催する文学賞に応募して次点の三位に入賞した。掲載紙を見たら、次点二位にセンシニの作品が載っていた。センシニは、ラテンアメリカとスペインに熱烈なファンを持つ、実力のあるアルゼンチン人作家だった。代表作の長編『ウガルテ』は、このように表現されている。

「読者を生み出していく類の小説だった」
 いい言葉だと思う。宣伝などの意図によるのではない。それ自体の力で読者を獲得する。めざすのはそのような作品でありたい。

 センシニの小説は、一等の作品より他の入賞作より素晴らしかった。すぐさま住所を問い合せ、手紙を書いた。思いがけない文通の始まりである。

 "僕"と同様、センシニも、生活のために文学賞に応募していた。くだけていえば、賞金稼ぎである。ふたりは文学賞の情報を交換し合い、次はあの賞、次はこの賞と、作品を送ってゆく。文学的評価を得ることより、賞金が目的だから、時にはルール違反もする。同じ作品を、異なる文学賞に送るのだ。それも題を変えて。

 センシニは、『夜明けに』という短編を四つの賞に応募した。もとの題では落選し、二つ目と四つ目の題で受賞した。おかげで、一か月半の家賃を支払うことができた。センシニは、手紙にこう書いた。

「仮に審査委員が重なったとしても恐れることはない、というのも彼らはたいてい応募作品など読んでいないか、読んでも飛ばし読みをするか途中まで読むだけなのだ」

 さらに、こうも書く。題が違えば違った二つの作品とみなすこともできるのではないか。題名にこそオリジナリティがある。確かに似ている、そっくりだともいえる、でも違う作品なのだ--。

 センシニは、マドリードに家族と住んでいた。文通をするうち、センシニの住まいが、バスルーム付きの2LDKであることを知り、それが自分よりも狭いので、"僕"は申し訳なく思う。センシニほどの作家が、なぜ恵まれないのか。いろいろな理由があるだろう。チリ人やアルゼンチン人はもちろん、南米の国情に詳しい人なら、理由の一端に思い当たるかもしれない。

 センシニは1920年代の生まれである。同世代の作家には、軍事政権に弾圧され、収容所に送り込まれたまま帰って来ない者がいた。

 センシニの息子は新聞記者だったが、南米のどこかで行方不明になった。物語の後半、秘密基地の土中から息子の遺体が見つかる。

 主人公の"僕"にせよ、故国のチリではなく、なぜスペインにいるのか。後書きに書かれている。青年時代のボラーニョは、一家でメキシコ市に暮らしていた。バックパッカーとして故国を訪れた時、アジェンデ大統領の社会主義政権を倒す軍事クーデターに巻きこまれ、一介の旅人でしかないのに、刑務所に拘留されてしまったという。

 そのような、政治にまつわる話は大事なのだが、それを抜きにしても、ボラーニョの世界はじゅうぶんにおもしろい。『センシニ』は文学の世界が題材になったが、女性の人生を描いたいくつかの短編は、生きることの難しさ、哀しさに加え、時に強さを描き、作家としてのまれな才能を感じさせてくれる。

 しかし、そんなボラーニョは、もういない。6年前に50歳で亡くなってしまった。惜しい。だからこそ、遺された作品に触れていたい。代表作である長編小説も、いずれ刊行される予定という。心から待っている。

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2009.09.17  |  CULTURE
COLUMNIST

木部与巴仁

詩人

「FIGARO JAPON」本誌書評欄などに執筆。作曲家、演奏家とともに、“詩と音楽を歌い、奏でる”「トロッタの会」を運営。2012年3月(月)、すみだトリフォニー小ホールの「日本音楽舞踊会議」演奏会に出演予定。5月13日(日)、第15回「トロッタの会」を早稲田奉仕園スコットホールにて開催予定。隔週刊で「詩の通信VI」を発行中。http://torotta.blogspot.com/

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