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ブラティスラヴァ国際絵本原画展グランプリ。アイナール・トゥルコウスキィ『まっくら、奇妙にしずか』

2009.03.19

ブラティスラヴァ国際絵本原画展グランプリ。
アイナール・トゥルコウスキィ『まっくら、奇妙にしずか』

 双眼鏡で、人々が何かをのぞいている。広がる闇。一軒の小屋。その向こうは砂丘。
 表紙カバーの絵から、物語はすでに始まっていた。
 砂浜に寄せられた一艘の船。まわりには、得体の知れない無数の機器がある。船にはひとりの男が乗っていた。

「ともかくまっくらで、奇妙に風がなかった。砂丘にはえたハマムギだけが、そしらぬ顔で、大嵐にあったみたいになびいていた」

 作者は、たった1本のシャープペンシルを使って、この"まっくら、奇妙にしずか"な世界を描いたという。かかった時間は3年。費やした芯は400本。

kibe0319a.jpgアイナール・トゥルコウスキィ『まっくら、奇妙にしずか』

「男はちいさな荷物をまとめて船から浜におりたち、おいしげった草をかきわけて一軒の廃屋にむかうと、なかに入っていった」

 小屋の様子が一変する。砂に突き立てられた棒。砂に頭を突っこんだ魚。洗濯物のように吊り下げられた魚たち。何? 男は何をしている? 人々がのぞき見するのも無理はない。住人はよそ者に過敏だ。誰かが気になるし、何をしているかが気になる。そのくせ、男が、かごいっぱいに魚を入れ、町へ売りに出ると、今度は無視。買うどころか話しかけようともせず、家の陰に身を隠す。あれほど興味津々だったのに!

 画家は、おしなべてそうだろうが、たったひとりでいることの勇気を、徹底して持てる人種だろう。

"まっくら、奇妙にしずか"の世界は、作者、アイナール・トゥルコウスキィひとりの精神が生み出したのである。彼はこの作品を、33歳での大学卒業審査に提出した。高校(ギムナジウム)を出てから舞台美術を勉強していたという。大学入学が遅くなったのは、そのためだろうか。作品を見せられて、審査の教授たちは驚いた。3年間、黙々とひとりの世界を育み続けていたわけだ。空恐ろしくもあるが、画家はそれでいい。それでなければ、これほど陰翳に富む、微細な世界は創造できない。その結果、世界最大規模の展覧会〈ブラティスラヴァ国際絵本原画展〉グランプリを始め、数々の賞に輝いた。

 --男は、雲をつかまえていたのだ。そして、雲が運んでくる魚や海草や、その他あらゆるものを得ていた。トゥルコウスキィは、雲のつかまえ方まで描いている。人々はさっそく真似するが、男のように魚は降ってこない。怒りにかられて男を追放しようとした時、小屋にはもう、誰の姿もなかった。代わりに、人々がつかまえた雲がぶつかり合い、押し合いへし合いし、頭の上で手のつけられない大きさに膨れ上がっていた......。

 歴史上、何度も繰り返されてきた、人類の愚かな姿である。

 ページをめくりながら、"まっくら、奇妙にしずか"な世界と向き合い続けた青年を思っていた。彼はいま、何をしているのだろう? ただひとりの部屋で、ペンを走らせているのだろうか? そのペンが描き出そうとしている世界は、何? 町の人々のように、双眼鏡でのぞき見してもよかった。

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2009.03.19  |  CULTURE
COLUMNIST

木部与巴仁

詩人

「FIGARO JAPON」本誌書評欄などに執筆。作曲家、演奏家とともに、“詩と音楽を歌い、奏でる”「トロッタの会」を運営。2012年3月(月)、すみだトリフォニー小ホールの「日本音楽舞踊会議」演奏会に出演予定。5月13日(日)、第15回「トロッタの会」を早稲田奉仕園スコットホールにて開催予定。隔週刊で「詩の通信VI」を発行中。http://torotta.blogspot.com/

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