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フランスでベストセラーの話題作。ジャン=ポール・デュボワ『フランス的人生』

2009.04.10

フランスでベストセラーの話題作。
ジャン=ポール・デュボワ『フランス的人生』

 読み終えてすぐに思った。
「小説とは人生を描き、語るものではないか」
「だとするなら、『フランス的人生』は、小説と呼ぶにふさわしい」

 主人公はポール・ブリック。1958年に8歳だから、作者ジャン=ポール・デュボワと同じ、1950年生まれである。デュボワは、主人公に自分を託した。そして、1950年以降のフランスの歴史と、彼自身の人生を重ねようとした。

kibe2.jpgジャン=ポール・デュボワ『フランス的人生』

 ポールが8歳の時。今に続く第五共和制憲法を認める国民投票が行なわれた。同時に彼は、ただひとりの兄ヴァンサンを失う。両親にとってもポールにとっても、彼は兄を失った、無責任に生きることを運命づけられた子どもとなる。強く、光り輝く兄。弟はそんな太陽に対し、光の恩恵をこうむる月であればよかった。その太陽が、突然消えてしまったら?

 夫となり、父親にもなったポールだが、彼は人生を通じて、責任ある立場につかなかった。結末は伏せるが、物語の終盤、ポールは仕事や資格など、持てるもの、築いてきたものを他人に問われる。しかし、何もなかった。だからこそ見えてくる、"フランス的人生"なのだろうか。

 九つの章には、シャルル・ドゴールから始まってジャック・シラクまで、時代ごとの大統領の名が与えられている。現在のニコラ・サルコジは、2007年5月に大統領となった。最も新しい時代の物語には、最後のページを閉じた後で思いを馳せる、ということになるだろう。

 旧世代の価値観を、否定することが許される時代を、ポールは生きた。何となく勉強し、何となく大学に入り、何となく社会に出て、これといった職業につくわけでもない。何となくロックを聴き、何となく恋をし、何となく子どもができ、そのあげく、結婚した。社会性は、むしろ妻アンナにあった。

 アンナは父親から受け継いだ会社を切り盛りし、夫と子どもたちに生活を保障する。ポールはといえば、家にいて、子どもの世話と単調な家事に、すべての時間を捧げた。そんな彼に変化をもたらしたのは、趣味の写真だった。フランス国中の木々を撮る豪華本『フランスの樹木』の撮影を依頼され、それをスケールアップした『世界の樹木』も請け負い、どちらも大評判となる。莫大な印税を手にするが、ポールには達成感がない。感性と技術で獲得した成功とは思えなかったのだ。やはり、何となく写真を撮っただけ。そして、ある日突然、破局が訪れる--。

 読者は、結末に悲劇を読み取るだろうか。そうは思えない。彼はもともと、何も持っていなかったのだし、持とうともしなかったのだから。ポールが54歳で迎えた人生の境地に、太陽の輝きはない。しかし、ほんのりとした月の明るさを感じた。

 成果を得ようとしてしくじった人には死が待っている。しかし、初めから成果を得ようとしなれば? フランス人だけではない。日本人の将来を暗示しているように思うのは、私だけだろうか。

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2009.04.10  |  CULTURE
COLUMNIST

木部与巴仁

詩人

「FIGARO JAPON」本誌書評欄などに執筆。作曲家、演奏家とともに、“詩と音楽を歌い、奏でる”「トロッタの会」を運営。2012年3月(月)、すみだトリフォニー小ホールの「日本音楽舞踊会議」演奏会に出演予定。5月13日(日)、第15回「トロッタの会」を早稲田奉仕園スコットホールにて開催予定。隔週刊で「詩の通信VI」を発行中。http://torotta.blogspot.com/

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