Home Series Music Sketch レンカ + ジェームスの個展@No.12...

Series

最前線で活躍するクリエイターの連載コラム。

伊藤なつみNatsumi Itoh
音楽ジャーナリスト
Music Sketch

レンカ + ジェームスの個展@No.12 GALLERY

サマーソニック09出演のために初来日したレンカが、彼女のCDのアートワークを手掛けたジェームス・ガリヴァー・ハンコックと個展『WE WILL NOT GLOW OLD』を開いていたので見に行きました。故郷シドニーでインディー・フィルムを撮影するディレクターの仕事を手伝う際に知り合ったという2人。今では公私にわたる良きパートナーとして4年の歳月を共にし、現在はレンカの音楽活動に合わせて彼もLAで生活しています。

itoa.jpg個展のタイトルになった『WE WILL NOT GLOW OLD』は、レンカの曲名から付いています。シルクスクリーンで描かれた曲のイメージと歌詞。

レンカのインタヴューはFIGARO JAPON本誌の9月20日発売号に掲載しますので、ここではジェームスについて紹介していきますね。2人は同じ31歳。ヒッピーだったレンカの両親同様に、オルタナティヴな感性を持つ両親に育てられたジェームスはユニークな環境で育ちました。特に心理学者だった母親の方針もあり、小学校に入る前から子供の発想やアートを重視したプレスクールに通っていました。そのため、幼少の頃から自分でアートの世界に進むと思っていたそうです。

itob.jpg刺繍も手掛けるジェームスは、2人のポートレイトも制作。

大学ではヴィジュアル・コミュニケーションを専攻。手法では、シルク・スクリーンに一番ピン!ときたそうです。しかし、「1つの手法を突き詰めるよりは、いろいろなことに挑戦してみたい」と、アニメーション、フィルム・メイキング、プリンティング、刺繍......など何にでも取り組み、やがてそれらを融合していこうとしたことで、アート自体に飽きることが全くなく、そして今のスタイルに辿り着きました。

itoc.jpgインタヴューに答えてくれた長身のジェームス。後ろにあるのはコピーを張り合わせた壁一面の作品。

「僕は常に新しい表現方法を探している。最近では刺繍とかステッチも好きだしね。どんな手法を使って表現するかは、イラストだったら最初からイラストで行こう!と明らかだったりするけれど、やはりシルク・スクリーンが面白い。というのも、立体の世界からスーパー・フラットなものにできるからね。すべてのものを一面の世界、つまりグラフィック・アートに表現できる。紙に描いて、コラージュで立体化して、それらをコンピュータに入れて構成し、シルクスクリーンにする作業が面白いんだ。言えるのは、作業を進めながら進化していくことが多いこと。フライヤーに描いたマッシュルームのように、最初はコラージュとして始まったけれど、レンカのステージ上ではもっと大きく立体的になって登場している。変化しながらポップかつシンプルになっていく、究極の世界だよね」

itod.jpg「SKIPALONG」という歌に合わせて制作。歌詞が書かれているのはもちろん、丸の中に書かれているGやAという文字はギターコード。実に細かい作業です。

なかでも素材としてフェルトを良く使うのは、子供の頃から慣れ親しんできたからで、この感触が好きだそう。

itoe.jpgフェルトも多用したコラージュ。

「テクニカルな面は仕上げとしか考えていない。一番のクリエイティヴ面は、最初にフリーな状態で成り行きのまま描き出していて、紙、ペン、色といったものを活かして、明確に何も決めずに広がりにのっていくんだ。これ以上広がらないあるポイントに来たら、テクニカルな作業に切り替えて、コンピュータを通して構成して、シルクスクリーンなどにまとめていく。大事なのは、最初の段階のクリエイティヴな世界作りなんだ」


レンカのソロ・デビュー・アルバム『レンカ』に関しては、最初に2人でどういったイメージやフィロソフィーを大事にするかを話し合い、レンカが歌詞の断片を書き始めた段階で、レンカは曲作りへ、ジェームスはアートワーク作りをスタートさせるそうです。そうして双方共に1年ほど掛けて完成させたのがアルバム『レンカ』というわけです。2人の頭の中にあるものを、レンカが目に見えない歌と、ジェームスが目に見えるアートへと表現していく、ユニークなカップルです。

itof.jpgギャラリーで、レンカとジェームスPhoto: Taro Hirano

「僕らのマニフェストは、時間と共に熟している。基本的には自分たちの世の中の見方を表現しているものさ。僕たちが"子供のクリエイティヴィティ"に何故こだわるかというと、子供はとても自由に無邪気に物を表現する。その、子供の絵の少しヘンだったり、完璧でなかったり、ぎこちなさがすごく好きなんだ」

itog.jpgフライヤーの裏側には、2人のマニフェストを明記。

itoh.jpgフライヤーに描かれたマッシュルームが進化してオブジェが完成し、レンカのサマーソニック09のステージにはこれらが並べられていました。

レンカは『不思議な国のアリス』の世界が大好きといい、ジェームスはモーリス・センダック著の『かいじゅうたちのいるところ(Where The Wild Things Are)』がお気に入りだそう。そう思うと、やはり2人の世界観は本当に近いのだと思います。2人が出会う前は、レンカはオルタナティヴ系ロックが好きで、ジェームスはハードコア系のアートが好きなアートおたくだったそうですから、出会ったことに由る化学作用で、実にユニークなものが生まれたわけです。ちなみに『かいじゅうたちのいるところ』はスパイク・ジョーンズ監督で映画化され、全米では10月16日公開、日本では来年公開予定です。

itoi.jpg「TROUBLE IS A FRIEND」という曲に合わせて制作されたシルクスクリーン。

「表現しやすいのは、表面はキュートでカラフルでハッピーだけれど、その内側を見るととても複雑でダークな面があるということ。たとえば"TROUBLE IS A FRIEND"には、明るい色彩が使われていて、一見キュートだけど、よく見ると骸骨や怖い動物の爪などがあるでしょ? 眼鏡を使ったコラージュにも、明るい部分と暗い部分のコントラストが強い。一見キュートだけど、これらのコントラストによって違和感を覚えるというか、違うふうに物が見えるような、ちょっと自閉症だったり、クレイジーな感覚になるように意識的に描いているんだ」

itoj.jpg目から見えるものを意識した、眼鏡を描いたコラージュ。

レンカの歌も、普通に聴いているとちょっとフォーキーでポップなメロディと、ガーリーな歌声が愛らしくて、ピュアな気分で聴いてしまうけれど、実際に歌詞を目で追うと、"もう引き返しても無駄なだけ 事実と向き合いましょう"(ブリング・ミー・ダウン)、"このひどい現実すべてから逃げ出したいの"(エヴリシング・アイム・ノット)など、ネガティヴな気持ちが吐き出されていることに気づきます。

itok.jpg自然が好きな2人。レンカも鳥が好きですが、ジェームスも好きだそうです。

最後にレンカとのコラボレーションを除いて、ジェームスが普段の作品のインスピレーションをどこから得ているのか訊いてみました。
「哲学から刺激を受けているね。1つの例としてスピノザ(オランダの哲学者)。神と存在すること、存在することとは何なのか、とか。あとは、自然や、僕らが考えるアイディア、それらに対する見方に興味を持っている。本当にこの世は現実なのか、この世は僕らのイマジネーションが生み出しているものなのか、とかね。それから人間の肉体とこの世の関係、人体学(anatomy)、そして肉体に対するナイーヴな感覚とか。アートは目で見るものだから、目を通して見るということにも当然興味があるけれど、思想的な部分が強いかもね」

itol.jpgレンカのCDのブックレットを開いてみると、ジェームスが描いたアートワークの世界が広がります。

オーストラリ政府の意向もあってアート団体からの支援を受けているジェームスは、パリに1ヶ月、ベルギーにも数ヶ月のアート留学の経験があり、あちこち転々とすることが、自分にとってのインスピレーション&モチヴェーションになっていると話します。残念ながら人前でパフォーマンスするのは嫌いなので、レンカが歌うステージ上でジェームスが絵を描くという共演は実現しそうもありませんが、今後も2人のコラボレーション活動を楽しみにしていたいですね。是非、レンカのCDを手にして、2人のコラボレーションを目と耳で堪能してください。

レンカとジェームス『WE WILL NOT GLOW OLD』
~2009年8月18日(水) 13時~19時
No.12 GALLERY
東京都渋谷区上原2-29-13 
tel:03-3468-2445
www.no12gallery.com


itoaaa.jpgレンカ


*to be continued

PROFILE
伊藤なつみ
音楽ジャーナリスト

女性ファッション誌での執筆をはじめ、SANKEI EXPRESSやNHK-FMの選曲、トークイベントやプロデュース等、多岐にわたって活動中。マドンナ、U2、ビョーク、レディオヘッド、ビヨンセ、レディー・ガガ、ジェイムス・ブレイクほかインタビューは数多く、邦楽洋楽問わず年間100本を超す取材を行う。
・Twitterはこちら