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元ホームレスのSpeech Debelleとは?

2009.12.21

元ホームレスのSpeech Debelleとは?


今年のイギリスの音楽シーンをスーザン・ボイルと共に騒がせたのは、2009年度のマーキュリー・プライズを受賞したスピーチ・デベルでしょう。この音楽賞、今まで受賞してきたのがフランツ・フェルディナンド、アークティック・モンキーズ、クラクソンズ......といった、まさに音楽シーンを動かしてきた顔触ればかり。今回もカサビアン、グラスヴェガス、フレンドリー・ファイアーズ、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、ザ・ホラーズ、ラ・ルーなどがノミネートされていたので、その中からの受賞といえば、音楽ファンなら絶対に気になると思います。

FIGARO060A.jpg今秋、イギリスで権威のある音楽賞マーキュリー・プライズを受賞したスピーチ・デベル。


スピーチ・デベルの音楽性(というかリリックが素晴らしい!)より先に、話題にされがちなのが、彼女の経歴。ちなみに本名はコリーヌ・エリオットです。父親は彼女が8歳の時に家を出て行き、その後6人の女性と8人の子供を作っていたらしく、一方スピーチはというと、福祉施設で働く母親と貧困でも裕福でもない、ごく普通の生活を送っていたそう。スピーチは小学生で早くから詩の才能を認められ、音楽がとても好きだったこともあって、13歳の時にはリリックを書き始めます。

しかし中学に入ってからは品行が悪く退学に。転校先で今度は15歳からマリファナを吸い続け、再び退学。ただし音楽の才能は注目され、ことさら音楽やリリックへさらに没頭するようになり、17歳で自身のレーベルを立ち上げる話が持ち上がるほどになりました。でも自惚れが強く、これが実現しなかった頃から生活が荒れ始め、さすがの母親も堪忍の尾が切れて彼女が19歳の時に家から勘当してしまったそう。

FIGARO060B.jpgホームレス専用の宿舎で暮らした間は、「一切わがままを言えなくて、社会的な人間関係のスキルが身に付いた」とのこと。写真は当時のものではありません。

そして22歳の時に友人救われて家に住まわせてもらえるまで、ホームレス生活に堕ちていたそうです。そこから更生してきちんと働き始め、自分の作品をレーベルに持ち込むようになったところ、"NINJA TUNE"レーベルのサブ・レーベル"BIG DADA"に認められ、デビューへの道が開かれました。その当時、スピーチは「ヒップホップ版のトレイシー・チャップマンになりたい」と話していたそうです。

アコースティック・ギターや管楽器などのオーガニックな音色を活かした、フォーク、ジャズR&B、ファンクなどが程よく緩やかにミックスしたサウンドに、軽やかに踊り語られるポエティックなスピーチ・デベルの歌声。語りというか、つぶやきというか、歌というか......、その曲ごとに違うのでなんとも上手く説明できませんが、優しく、しかもじんわりと響く音楽です。

その内容は現実そのもので、社会意識の高いリリックの連続。個人的な語らいと、政治・世俗的な話と、精神的描写とが、心地良いサウンドに乗って行き来し、リスナーをリアルなロンドンの街へとガイドするかのような感覚にも陥らせてくれます。

FIGARO060C.jpg イギリスではスーザン・ボイルに続く有名女性シンガー!?

たとえば先週末に行なったインタヴューでは、リード・トラック「Spinnin'」について次のように答えてくれました。

――リード・トラック「Spinnin'」はどんな思いで書いた曲ですか?

「Spinnin'」は人生における繰り返しについて歌った曲よ。あなたが人生でチャレンジしなければいけない事はたくさんあって、それを乗り越えたらまた次が来て、あなたは永遠に乗り越える事をし続けなきゃならない......ということについて歌った曲。ポジティヴな意味でね。人生は新しい経験の繰り返し。チャレンジし続けるという事においては皆一緒で、どういった事へのチャレンジかということと問題を乗り越える方法が、皆それぞれ違うだけ。そんな事を感じたことから生まれた曲なの。

――デビュー・アルバム『Speech Therapy』に入っている曲で、自分を支え、勇気を与えてくれた曲はどの曲ですか?

「Better Day」よ。この曲は未来についての歌だから。明るい未来を歌っているのよ。この曲を聴くと明るい気分になれる。私がやらなければいけないことを歌った歌でもあるの。私の指針にもなっているわ。

――自分の歌では、どのような感情が一番表現しやすいですか?

「痛み」と「野望」ね。「痛み」は何をしている時にも常に私の体に染み付いていたものだし、「野望」は......、私は勝つことが好きなの。「痛み」と「野望」が、今の私にとって一番身近でリアルな感情であることは間違いないわ。

i6.jpgスピーチ・デベル『Speech Therapy』

19歳から現在に至るまでの経験が元になって完成したという、彼女の意思声明そのものである『Speech Therapy』。そこには父親への思いも母親への感謝の気持ちもしっかり歌われています。

「このアルバムには、私の成長期に経験した、家族、愛、我慢、痛みなどの、自分の胸に留めておきたいこと、忘れてしまいたいことを詰めたの。愛と痛みは、紙一重だっていうことを知ったわ。痛みを乗り越えた先には愛があるし、愛が痛みをもたらすことだってある。そういった物事への理解を探究することから始まり、見つけた理由を用いて『Speech Therapy(言語治療)』することこそが、このアルバムの存在意義なのよ。」

9月8日の授賞式の後はゴードン・ブラウン首相の家にも招かれるほど、彼女を取り巻く環境が一変。スピーチは首相に対し、「私があなたのアドヴァイザーになってもいいわよ」と話したほど、歯に衣を着せぬ発言も注目を集めています。


単なるBGMとしても心に優しい音楽ですが、是非リリックもチェックしていただけるとさらに得るものが多いはずです。日本盤には私がさらに詳しい解説原稿を書きましたので、読んでいただけると幸いです。

*to be continued

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2009.12.21  |  CULTURE
COLUMNIST

伊藤なつみ

音楽ジャーナリスト

フィガロジャポンではActualite のページをメインに原稿を執筆。マドンナ、デイヴィッド・ボウイ、U2、クインシー・ジョーンズ、ビョークをはじめ、洋楽邦楽問わず多数のアーティストに取材。
・ELLEgirlでの連載ブログはこちら

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