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4:37個目の気持ち

2011.11.04

4:37個目の気持ち

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 歩いて10分の圏内だけで暮らしている。その中に、市場も公園も銀行も薬局も映画館もある。刑務所もあれば、教会もある。商店街を抜けるときは流行を早送りで見るようであり、大きな広場を渡るとき多くの人や犬とすれ違い、生物図鑑のページをめくる気分である。
 500メートルほどのところに、文系の高校もある。その近くを歩くと、他の地区にはない風景に出会う。高校生を目がけて店が開き、モノが集まるからである。そこには、思春期のミラノがある。
 天気が良いと公園に、移動パン屋がやってくる。日当りのよいベンチで作り立てのサンドイッチを食べていると、重そうなリュックを持った15、6歳の女の子が来て、「座ってもいいですか」と尋ねた。もちろん、とベンチに並んで座る。
 とたんにその子は、声を出さずに泣き始めた。大粒の涙が溢れて止まらない。切ないその子は、はちきれそうに太って愛らしい。目の前の移動パン屋で、アイスクリームを買って勧める。
 少女は少し驚くが、すぐに「いただきます」と気持ちよく受け取り、嬉しそうに食べた。何があったのか知らないけれど。
 それではまたね、とだけ挨拶し合って別れた。

 2、3週間して、晴天の公園で少女に再会した。すぐにこちらに気づいて大きく笑い、ちょっとそこで待っていて、と手で合図して走って来た。
「このあいだはごちそうさまでした」
あのときと同じアイスクリームを2個持っている。ベンチに並んで座り、今度は2人ともにこにこしながら並んでアイスクリームを食べる。食べ終わって、おもむろにヴァレリアは両手を私の前に出して見せた。
 ぷっくりとした手には、無数のブレスレットがあった。
「これが原因だったの」
そのうちの一つを指でつまんで、少女は少し憎らしそうな顔をして言った。

 全部で37個のブレスレットは、ヴァレリアが高校に入ってから今日までの、喜怒哀楽の記念なのだという。笑っても泣いても、心に迫ることがあると、ブレスレットを1個つける。たった1年のあいだに、37回も心を震わせる事件があったのか、と15歳がうらやましい。
 夏休みの海で、初めてのボーイフレンドができた。夢のような1ヶ月の記念に、と恋人は特注のブレスレットをくれた。学校の近くに腕のよいアクセサリー職人がいて、そこで作ってもらったのだ、と彼は言った。
 夏が終わって秋も過ぎ、そのうちメッセージを携帯に送っても、電話をかけてもボーイフレンドからは返事が来なくなった。 
 3週間前、新しいボーイフレンドが出来た、と教室ではしゃぐ同級生がいる。さかんに自慢しているその子のほうをふと見て、目を疑った。有頂天の級友の手首には、ヴァレリアが恋人からもらったのと一寸違わないブレスレットがあった。
「しかも、ボーイフレンドの名前も同じだったのよ」

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2011.11.04  |  CULTURE
COLUMNIST

内田洋子

エッセイスト

著書『ジーノの家』(文藝春秋刊)で第59回(2011年度)日本エッセイスト・クラブ賞、第27回講談社エッセイ賞を受賞。
UNO Associates Inc.代表。
欧州の報道機関、記者、カメラマンをネットワーク化してマスメディア向け情報を配信。
Title Photo:2011©Julie Pisu

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