2009.04.30
銀座をきものでぶらりと歩く
昔ながらの衣がえは六月、この月から単衣(ひとえ)のきものを着るのがしきたりです。ただし現在のように気候が不順で真夏のように暑い日があったりすると気持ちがゆらぐこともあります。
ただし「帯つき」と言われているコートも羽織も着ない、着物と帯だけの姿がいちばんスッキリと気持ち良く見えるのは、四月から五月だと私は思っています。寒がりのせいもありますが、三月は、まだ何か羽織るものが欲しいですし、四月の始めは、ショールが欲しくなりますから。
というわけで少し遅いのですが今回は、袷(あわせ、裏つきのきもの)の気軽なきもののお話です。 <きもので銀座>という感じでしょうか。
実は、あるカード会員誌で銀座ガイド、それも'和の真心'が伝わる店というテーマの取材をうけることになりました。四月にでる五月号でした。
これは是非きものを着ようと考えました。
写真:山口卓也
写真:山口卓也
仕事ではなくプライベートで銀座へ、それもきもので。長年のささやかな夢のひとつですが、歌舞伎に行く時のような切羽詰まった必然性がないこともあり実現しないままでした。
まず何を着るか?染めの小紋?母から譲られた塩沢紬?一度も写真を撮られるような時には着たことのない紺地の麻の葉の紬?どれもしっくりこない気がして結局一番頻度高く写真撮影で着たことのある、お気に入りの市松の大島紬と決めました。
この大島の反物を見つけたのは確か30代半ばのころ。まだきもの好きの人たちが大島、大島と騒ぐのが理解できていない時でした。ただし、もし着るのなら昔、叔母たちが着ていた大きな葡萄唐草のような少し野暮ったい柄がいいなと漠然と思っていた記憶があります。
ところが、ある販売会でこの反物に出会ってしまいました。市松は私の大好きなモチーフのひとつ。おもわず手に取り求めてしまいました。当時の私にとっては決して安いものでなかったのですが迷いは、ありませんでした。
大袈裟に言えば運命的な出会いのきものです。今現在持っているきもののなかで多分これを一番頻度高く着ています。それほど気に入り、着易いのです。
自分の物にしてから、7,8年は反物のままでした。40代になった頃、早く着なければもったいないと、あせって仕立ててもらったのですが。
着てみて初めて人が大島、大島というのがわかりました。軽くてしわにならない。比較的に雨にも強い。滑りが良いので着心地も申し分なし。染めのきものほど気張らずに、気軽に着れる。いくら高価でも紬はあくまでも普段着と母から教えられていたことも納得でした。
銀座を、この季節、ぶらりと歩くなら私の持ち物では、これが最適。上田紬では少しぼってりし過ぎと感じました。次に帯は?一時このきものには必ず自分が企画した縮緬の染め帯、紫地に獅子と鞠の柄のものばかりしめていました。
さすがに最近はそれも少しあきてきて、もうひとつ別の染め帯、ブルー地に貝桶の柄のものにすることも多かったのですが、銀座気分ではない気がしました。
そこで選んだのがもう20年以上前、まだ今昔西村が表参道のハナエモリビルの地下にあった頃、偶然見つけたこの昼夜帯です。一目見て更紗模様に惹かれました。汚れていず、ほぼ未使用状態なのに一万円でした。これも迷わず買い。
紫地の麻の葉の紬にすることが多かったのですが、今の季節なら大島を軽く見せてくれるようで決めました。そのかわり帯締めは、くすんだえんじ、帯揚げは淡いグリーン系でこっくりめ。半襟も白ではなく薄いグレーにしてカジュアル感をだしたつもりです。
帯の締め方も普通のお太鼓ではなく、つのだしにして、たれには昼夜帯の裏の黒じゅすをだして遊びの気分を少しだけ。履物も一番はきやすい阿波屋の男物のコルクの草履。バッグは荷物の少ない洋服の外出時にも愛用中のプラダのナイロン製。着てしまってからより、これらのことをあれこれ思いめぐらすその時が楽しい時間だったようです。
今回、取材でお訪ねした銀座 金春通りの老舗の呉服屋、<伊勢由>さんの女将千谷光世さんの装いも素敵だったので、そのことも。
なんとも言えない深いグリーンに細かな縞が艶やかなきものは牛首紬ということでした。噂で聞いたり反物では度々目にしていましたし、男の方の愛用者は知っているのですが、女の方の着た姿をまじかで見たのは初めてかもしれません。さすがと思わせる味わいと着こなしが調和してきものの魅力を再認識。帯は塩瀬の染め帯で黒地に竹の柄。もう少し前なら桜にしたということ。季節を染め帯の柄で楽しむというお話も参考になりました。まだまだ学ぶことは山ほどありますが、このようなきもの姿の方にお会いするとなんだか幸せな気持ちになり元気がでてきます。
写真:山口卓也
帯つきの季節のきもののお話はこのへんで・・・
実はフィガロで今年も夏のきもののページを特集することになりました。去年より一月遅い6月売りです。その準備中で、今の私の頭の中は夏きものでいっぱい。それもあって、いま袷の話をするのに違和感がありました。
でも現在きもの屋さんまわりをしていると、すっかり単衣と夏物にきりかわっているところもありますが、袷用の反物や冬帯がお値打ち価格で隅に置かれていることもあります。よく見ると気になるものがあるかもしれません。
きものは、そのシーズンが終わると古くなってしまうものがある洋服とはちがいます。じぶんの好きなもの、次に求めたいと思うものがはっきりしていれば、これというものに出会ったら、すぐに着るものでなくても手にいれる価値があるかもしれません。というより、あせって探すより、偶然のほうが良いものにあたる気がします。私だけの経験かもしれませんが。良いきものにめぐり合いきもの好きになる人が少しでもふえますように・・・
原由美子
スタイリスト
日本のスタイリストの草分け的な一人。1970年雑誌「an an」創刊に参加。その後、スタイリストとして活動をはじめ、1990年からはフリーのファッションディレクターとして「フィガロジャポン」「婦人公論」「Hanako」など数々のファッションページや朝日新聞のコラムなどを手掛けてきた。著書に「原由美子のおしゃれ上手」など。