2009.10.06
映画『ヴィヨンの妻』のきものについて
ご無沙汰しています。
9月着る単衣(ひとえ)のお話を、と思っている内に、あっという間に10月になってしまいました。というわけで今回は10月10日から公開の映画『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』のきものについて少しだけ。
太宰治の原作、監督は根岸吉太郎。それに浅野忠信、松たか子、広末涼子、妻夫木聡、堤真一という豪華キャストが勢揃い。興味津々で早く試写をと思っていたのに、ななかな行けずじまい。
モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞受賞のニュースを聞き、ますます観たくなり、やっと行ってきました。
案の定、試写室は混んでいましたが・・。
昭和20年代が舞台ということで、普通の女の人は、ごく日常的に普段にきものを着ていた頃ということなります。
衣装デザインは実力者の黒澤和子さん。彼女の映画はいつも関心するのですが、着込んでなじんだ感じのきものの質感が見事に再現されていて生活感がよく出ているのが魅力です。
『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(C) 2009 フジテレビジョン パパドゥ 新潮社 日本映画衛星放送 10月10日公開予定 配給:東宝
主演の松さんが着るメインのきものはえんじ地の市松柄が印象的なお召。
市松好きの私としては、このきものを見られただけでも幸せな気分。
多分古いきものを洗い張りして、松さんのサイズに仕立て直したもの。何げないピンク地の染め帯に紫の帯締め。帯あげの出し方や衿合わせも、普段着らしいごく自然な着方。
皆が毎日、自分で普通に着ていた雰囲気がよく伝わってきます。
それに松さんは、歌舞伎のお家で育った人らしく、きものの着方が板についていて、単なる自然さだけでなく、役柄らしい着こなしになっているのは、さすがです。
95年のNHKドラマ宮尾登美子原作の『蔵』でも感心して観ていたのですが、大人の女らしい色っぽさと美しさに磨きがかかり、見とれてしまいます。
もう1枚の紺地の絣のきものの時も、このえんじのきものの時も、半衿は淡いベージュ。日常的に着ていた時代には、汚れが目立たない色をしていたわけですが、これがまた、白とは違う魅力になっています。
白半衿でなく、しかもきっちり衿もとをつめず、かなりゆったりラフに着つけても、美しいきもの姿は可能です。ただし、着慣れぬまま真似すると、清潔感のない、だらしないだけの着姿になる危険もあります。そんなことを考えながら、松さんのきもの姿と歩き方や仕草を見ていると、いろいろ参考になるはずです。
一方の広末さんはエキセントリックな役柄にふさわしく、少し大胆なきものと帯。それに肩にかかる髪型で性格を表しています。こちらもお召のようで、染めのきものではありません。
現代のようなおしゃれ着としての高級な紬ではなく、普段に着られていた典型的な織のきものの着こなしを見られるのも、この時代ならではのもの。
時代劇になると、きものも髪型も決まりがあり、現代とかけ離れ過ぎるきらいがあります。でも、大正から昭和のこの時代くらいまでだと、きものの着方も現代に通じるものがあり、しかもより大胆だったりして興味深いものがあります。
鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』、市川崑監督の『おとうと』等、機会があったら見て下さい。
それとこの映画のもうひとつの見所は浅野忠信さんのきもの姿。着こんだ結城らしききものと羽織をひたすらラフに着ているだけなのに格好良い男の色気が感じられます。役者さんだから、二枚目だからあたり前ではすまさずに、よく観察したいもの。しっかり腰がきまっていれば、きものというのははだけても、さまになります。これにも無論、慣れが必要ですが。
この夏、かなり絶望的な男子の浴衣姿を沢山目にしたので、余計感じたのかもしれません。
原由美子
スタイリスト
日本のスタイリストの草分け的な一人。1970年雑誌「an an」創刊に参加。その後、スタイリストとして活動をはじめ、1990年からはフリーのファッションディレクターとして「フィガロジャポン」「婦人公論」「Hanako」など数々のファッションページや朝日新聞のコラムなどを手掛けてきた。著書に「原由美子のおしゃれ上手」など。