2009.10.29
故 鯨岡阿美子さんから、譲られたきものです。
いよいよ10月、帯付きに最適の季節到来と思っていたら、すでに半ば過ぎ。なかなかきものを着る機会がありません。というより、目下、事務所の引越し中で余裕なし、というのが本当のところです。
そんな折、きもののムックを、それも初心者向けのものを創刊する出版社から取材の依頼がありました。
きものを少しでも多くの人に着て欲しいと望んでいる私ですから、こういう機会は逃すわけにはいきません。
お正月前にでるムックのための、少し華やかさを意識したきもの。
でも大袈裟なものでなく、普段の一番のお気に入りを、ということだったので、最初に頭にうかんだのは、やはり市松の大島紬でした。
でもこのきものは、なにかの取材というと着ていたので、やめることにしました。
それに、初めての方に最初から紬というより、まずは染めのきものを着てみて、その着心地を知ってから紬の良さを知って欲しいという気持もありました。
お正月にはんなりしたい気分なら、染めのほうが相応しいのでは、というのが私の考えでもありますし。
というわけで今回、着ることにしたのは、黒地に白の柄の小紋。
故 鯨岡阿美子さん(編注※)から、譲られたきものです。
単衣だったのですが、自分のサイズに仕立て直す時に袷(あわせ)にしました。
なんの柄だかわからなかったのですが、あるきものに詳しい方には、紅型の色をなしにして、黒白だけで染めさせたものではないかと言われました。そう言われてみると、そんな気もしてきます。個性的なきものがお好きだった鯨岡さんらしいなと感心した次第です。
江戸小紋、京友禅、それに彩色された紅型も好みの色と柄なら好きですが、このきもの独特の雰囲気には大いに引かれました。
黒白で、一見地味ですが、柄の大きさが微妙で華やいだ気分もあります。
きものの場合は洋服とは異なり、モノトーンより色に魅力を感じるのですが、これは例外で、お気に入りのきものとなりました。
きものが決まったら、次は帯。
以前は、これも宇野千代さんから私の母に、そして私にと譲られた白地に牡丹が刺繍された帯をすることが多かったのですが、この日は、グリーン地の吉野格子の帯にしてみました。
これは、この昨年のコラムの文久小紋に締めているのと同じ帯です。
今回のきもののことは考えずに手に入れた帯ですが、絶対にあうだろうと思っていたものです。
好きなものが定まってくると、自然に着まわしが効くものになっていくようです。
牡丹の帯ほど華やかではありませんが、きものの雰囲気にはこちらの方があって入る気がします。
ちなみに鯨岡さんがこのきもの用に残されていたのは、黒地にオレンジ色のたずなが1本刺繍されているという大胆な帯です。この帯で私がこのきものを着るとらしくないようで落ち着きません。
いつかしっくり着られる日が来るのかもしれませんが・・・
半襟は、白ではなく薄いグレー。このへんが私のこだわりです。もちろん白でキッパリ、スッキリ着るのもありですが、少し柔らかい雰囲気にしたいので。
帯締めはブルー、帯揚げはくすんだ赤にして、色遊びを楽しみます。
指輪は帯揚げの赤にあわせてルビーにこまかいパールをあしらった典型的なヴィクトリアンの楕円のもの。
バッグは、アニヤ・ハインドマーチのジャカードシリーズのグリーンの小型トートです。縁取りのブロンズ色が、きものにも向いているようで、よく持ちます。
履物は阿波屋のコルクの男物の草履です。
どこかで脱ぐ時は避けますが、歩く時には、これが一番快適なので、つい頻度高く履いてしまいます。このスタイルなら、銀座を思い切り歩きまわり、そのあとでちょっと気取った食事どころというのも、OKだと思うのですが・・・
撮影のためではなく本当に自分の時間のためにきものを着る余裕を持ちたいと願うばかりです。
※編注:故鯨岡阿美子さん
服飾評論家の第一人者として活躍。新聞記者の後、黎明期の民放テレビ局で、日本で最初の女性プロデューサーとなる。日本のプレタポルテの土台を築いた。編著として『文春実用百科 きもの──選び方ときこなし』などがある。
原由美子
スタイリスト
日本のスタイリストの草分け的な一人。1970年雑誌「an an」創刊に参加。その後、スタイリストとして活動をはじめ、1990年からはフリーのファッションディレクターとして「フィガロジャポン」「婦人公論」「Hanako」など数々のファッションページや朝日新聞のコラムなどを手掛けてきた。著書に「原由美子のおしゃれ上手」など。