2009.08.11
フランス・リヨンへの取材旅行 Part.2
さて、久々に見る"スズキのパイ包み"。こんがりと焼けた焦げめが、いかにもおいしそうだ!
「そうそう、この大きさ!このスタイル」
「レンガ屋」時代の情景がふっと蘇る。私にとっては思い出の味だ。
"スズキのパイ包み焼き"
客へのデモンストレーションが終わると、ベテランの給仕長が、目の前(テーブルの横)で、鮮やかな手つきでパイ包みをさばいていく。パイ皮をはずし、中のスズキは、身をきれいに骨からはずした状態で、パイ皮と共に皿に盛りつけられていく。一連のそのスマートなパフォーマンスに思わず見とれてしまった。
そして頭の部分。ここが、昔から気になっていたところなのだが、なんと、ちゃんと頬の肉を取り、皿に盛りつけてくれるではないか!! 「レンガ屋」では、ワゴンと共にさげられていたというのに。それを横目で見ながら、「あそこがおいしいンだけどなぁ」と心の中で指をくわえていたあの頃の私の思いが、30年もたった今、やっとかなったわけだ。
人間、生きてみないと、ホント、何がおこるかわからないものだ。料理に興味を持ち始めた高校生の頃。当時、『きょうの料理』に出演したポール・ボキューズ氏を、畏敬の目で見ていたこの私が、今日、そのボキューズ氏のレストランで食事をしているのだから。しかも、明日、ボキューズ氏にインタビューまですることになっている。
時の流れの面白さ、不思議さを改めて感じていると、お皿に山盛り状態のスズキとパイが、目の前に運ばれてきた。いやぁ、さすがに多い。思わず、笑っちゃうぐらいのボリュームだ。
サーブされた"スズキのパイ包み焼き"
オーダーの際、「量が多いけれど、大丈夫ですか?」そう改めて聞き返されたのも納得!!である。でも、これで、心おきなく思いっきり食べられそうだ。胸をワクワクさせつつ、フォーク、ナイフを握りしめる。
ソースは、やや酸味のあるショロンソース。軽い味わいのようでいて、けっこう濃い。久々に、フレンチらしい王道のしっかりとしたソースを頂く。やはり、「ボキューズ」だなぁ・・・。
肝心のスズキは、実にふっくらとしてジューシーに仕上がっていた。ギリギリ火の入るところで止めて焼きあげているのだろう。おそらく、オーブンから取り出し、テーブル席にまで運び、さばかれるまでの時間を見計らい、余熱で中まで火が入るように計算されているのでは?と思わせるような、絶妙の焼きあがりだった。
口にすれば、しっとりとして、品のいい旨味が舌に広がる。スズキ独特の風味が、ショロンソースとまじわることで香気に変わり、その酸味が、全体に優しい味わいのこの料理のアクセントとなっている。それゆえか、量があるにもかかわらず、舌を飽きさせない。パイも羽根のように軽やかだ。とはいえ、この一皿でかなり満腹。
残す肉料理とデザートが、果たして入るかどうか、チョッピリ心配になってきたところに、仔鳩登場。"Pigeon en feuilleté au chou nouveau."である。
"仔鳩のロースト"
注文の際、一瞬、"仔羊のロティタイム風味"にも目が走ったものの、そこは理性がブレーキをかけた。"なるべく軽いもの、量が少なそうなものを"そう考えて仔鳩にしたわけだが、これが正解でした。日本人の胃袋サイズで、ホッと胸をなでおろした次第。
見れば、肉がダメなカメラマンのS女史以外は、H氏もM先生も"仔鳩"を注文していた・・・。"軽めに、少なめに"そう思う気持ちは、皆、同じのようだ。ふつう、この手の鳥は、ロゼに仕上げることが多いと思っていたのだけれど(特に日本で食べる場合は)、かなりしっかりと火が入っていたのには、少々驚いた。
私の皿だけではなく、どの皿の仔鳩もウェルダンな焼きあがりだったから、この店では、このスタイルが常套なのだろうか? それとも、たまたま私たちの席だけ火が入りすぎちゃったのかなぁ・・・。
ここで、いよいよデザート!!と思ったところに思わぬ伏兵。チーズのワゴンが静々と運ばれてきた。いやぁ、お見事!!という種類の豊富さ。おなかはいっぱいのはずなのに、よりどりみどりのチーズを前に、目が欲しがる自分に我ながら呆れてしまう。またしても食べすぎてしまいそうだ。ウォッシュチーズのエポワスと、山羊系のチーズにコンテの3種類を少しずつ頂く。
エポワス、山羊系、コンテの3種類のチーズ
お酒はてんでダメなはずの私なのに、どういうわけか、フランスではワインがおいしい。というか、グラスに1~2杯はいけてしまう。今日も、シャンパンに、白、赤とグラス半分ぐらいずつだが、おいしく頂いた。いつもとチーズの味も違うような気がする。ゲンキンなものだ。
チーズでワインを飲み切ったところで、いよいよデザートの番である。サバラン、タルト、チョコレートケーキにウッフアラネージュと、見るまにスイーツたちでテーブルが埋めつくされた。
サバラン、タルトなどのスイーツたち
とはいえ、頼むデザートはハナから決まっていた。"ウッフ・ア・ラ・ネージュ"である。やはり、昔、「レンガ屋」でいつも食べていた私の定番デザートだ。当時は、あめかけだったように思うが、運ばれてきたそれには、色とりどりのプラリネがトッピングされていた。ふわふわ、パフッの軽やかな口どけのメレンゲに、カリッ、コリッの食感も小気味良いプラリネが程よいアクセント。どことなく懐かしくも粋なおいしさだ。
"ウッフ・ア・ラ・ネージュ"
これでフィニッシュ!?と思ったら・・・。今度は、フルーツが登場。チェリーにイチゴ、フランボワーズなどがズラリ。華やかさにつられて、イチゴとフランボワーズを、また、オーダーしてしまった。そのまま出すのではなく、ソースで飾りつけてからテーブルに出すあたり、いかにもオシャレ。グランメゾンらしい。30年前の私なら、きっと瞳が♡になっていたことだろう。
ソースを添えたイチゴとフランボワーズ
さすがに満腹。肝臓がフォアグラ化したガチョウのような気分だ。12時半頃から食べ始め、食べ終えたのは4時半をすでにまわっていた。実に4時間! 優雅なランチで1日が終わった。
40 QUAI DE LA PLAGE, 69660 LYON, FRANCE
☏(04)72429090
営業時間/ランチ12:00~13:30、ディナー20:00~21:30(食事開始の時間)
定休日/なし ※要予約
http://www.bocuse.fr/accueil.aspx
森脇慶子
フードジャーナリスト
「dancyu」をはじめ、数々の雑誌やメディアのグルメシーンで活躍する、フードライターの草分け的存在。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩きに邁進。その小柄な体からは想像できないほど強靭な胃袋の持ち主。「東京最高のレストラン」の採点者を務めるなど、その舌に絶大な支持を集める。