2009.04.07
「流石はなれ」でそばの食べ比べ
凝り性というわけでもないのだが、食べ物にしても、レストランにしても、一度気に入ると立て続けに食べこみ、通い詰める傾向がある(おそらく、父親譲りだ)。で、近頃、すっかりはまってしまったのが、新富町「流石はなれ」である。
オープンは、今年の1月16日。それに先立ち、プレオープンの14日に、婦人公論のK女史と出かけて以来、取材とプライベートを含めれば、すでに6回はこの店を訪れている。およそ1ヵ月に3回の割だから、ほとんど毎週来ていることになる。
で、今日は7回目。元グレース編集部のY嬢と大先輩のW女史ことPさんと3人で会食である。
ちなみに、ここは、名前からも想像できるように、あの東銀座の蕎麦屋「流石」の姉妹店。単品中心の「流石」に対して、こちらは、コースのみ。季節の料理が5~6品ほど出て、〆めにそばという構成だが、途中、そばサラダやそば寿司、そばがき入りの鍋など、そば料理も随時登場する。
それも楽しみの一つだが、何より私のツボにはまったのは、自分の好みのそばを最後に打ってもらえるという点だ。太打ち、細打ちの好みは言わずもがな、予約の際に頼んでおけば、変わりそばから、産地別のそばの食べ比べなどなど、出来うる限り、客の要望に応えてくれる。
そんな頼もしいそば職人は、矢守昭久さん。この店では、彼、手挽きにも挑戦している。矢守さん自身、相当マニアックなそば好きなのだけれど、不思議にストイックな感じがしない。加えて、そのマニアックさを、決して客に強要しないところも、好感度大!
眠庵の柳澤さんにも言えることだけれど、近頃の若手蕎麦職人の多くは、マニアックではあるけれど、昔のような、ある種宗教的なストイックさをあまり感じさせない。そう、みんな、楽しんで、面白がってそばとたわむれている・・・そんな微笑ましさを感じるのだ。
もしかしたら、彼らの場合、蕎麦はこうあるべきという固定概念にあまりこだわっていないのかもしれない。もちろん、蕎麦の質や、状態、打ち方にはこだわるけれど、1つのスタイルに固執して打つのではなく、一つのそば粉から生まれるいろいろなそばの味や香り、スタイル、可能性を面白がっている・・・そんな気がするのだ。だから、こっちもいっしょになって、ヘェーとかふぅ~んとか言って、その時々に異なるそばの表情を楽しめるのだろう。
閑話休題、話を「流石はなれ」に戻そう。
実は、何回目かに訪れた2月某日、矢守さんは、私にこう言い放ったのでした。「森脇さんの誕生日には、5種類のそばを打ちわけてあげますよ!」。すかさず、「来月なんだけど・・・」。というわけで本日は、何と5種類ものそばを堪能できる手はずになっている。
さて、そばのことばかり書いてきたが、料理も負けず、頑張っている。和食の担当は、五十嵐大輔さん。矢守さん同様、「流石」の出身だ。五十嵐さんの料理は、若いのに落ちついている。そして素直だ。料理の方も、蕎麦同様我儘OK。天ぷらが食べたい、野菜をメインで等々、予算に応じて出来うる限り応えてくれる。
この日、私は貝をリクエスト。当日のメニューは、以下の通りだ。
1)ホタルイカと菜花の酢味噌添え
2)貝類の酢のもの(赤貝やミル貝など旬の貝が満載)
3)竹の子そば(お椀代わりに登場。おだしは関西風)
4)真名鰹の幽庵焼(炭火でこんがり)
5)そばがき(ムースのようにふわふわ)
6)春野菜の煮浸し(芽きゃべつやうるいなど)
7)金目鯛と鯖のそばの実あんかけ(優しい春の味)
ホタルイカと菜花の酢味噌添え
貝類の酢のもの
竹の子そば
真名鰹の幽庵焼
そばがき
春野菜の煮浸し
金目鯛と鯖のそばの実あんかけ
ちなみに、お椀代わりの竹の子そばは、山形秋保の秋保在来種、そしてそばがきは福井・越前大野の大野在来を使用。共に'08年産だ。
そして、いよいよ真打ち、そばの登場である。
まず、一枚目は、先のそばがき同様、'08年の福井産大野在来種。見るからに緑がかった端正なそばだ。鼻先をくすぐる草の香り、シコッというよりは、ややもっちりとした食感は手挽きなればこそだろう。10食分挽くのに約2時間はかかる作業を、矢守さんはいつも喜々としてこなしている。
'08年福井産の大野在来種そば
続いての登場は、同じ福井の産ながら、1年熟成させた'07年収穫のそば。緑の鮮やかさはあまり変わらないが、一箸手繰れば、香りよりも、かみしめるほどに深みを増す甘みが印象的だ。
続いて、変わりそばのゆず切りで一度、口中をリフレッシュ。これ、冷やかけで食べたらもっとおいしいかも!!なんて言いながら、次を待つ私たちの前に現れたのは、'08年版群馬の常陸秋そば。こうして食べ比べてみると、常陸秋そばは、いかにもそばらしい(という言い方も妙なのだが)、正統派の味がする。キリッとして礼儀正しいおいしさだ。
変わりそばのゆず切り
そして、最後は北海道ニセコ産の牡丹種。'08年度産だ。これが絶品!! 前回、来た時も同じそばを出してくれたのだが、まるで別もの!!と思わせるほど、甘みが濃い。そう、甘みが深いのだ。その香りさえ、どこか甘やかな風味を漂わせているような気になってくる。草や穀物の香りとも相まって、ダイナマイト級のインパクトを舌に残す。
'08年北海道ニセコ産の牡丹種そば
ホントは、最後にもう一枚、福井に戻るつもりだったのだけれど、この牡丹のあまりのインパクトの強さに圧倒され、この後では、さすがに福井も印象が弱くなりそうで断念。代わりに釜揚げでフィニッシュ。ボディのあるそばの甘みをダイレクトに楽しめる。
釜揚げそば
今日もおなかいっぱいです。
東京都中央区湊3-13-15
☏03-6228-3870
定休日/日・祝
営業時間/12:00~14:00、18:00~20:30(要予約)
森脇慶子
フードジャーナリスト
「dancyu」をはじめ、数々の雑誌やメディアのグルメシーンで活躍する、フードライターの草分け的存在。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩きに邁進。その小柄な体からは想像できないほど強靭な胃袋の持ち主。「東京最高のレストラン」の採点者を務めるなど、その舌に絶大な支持を集める。