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「眠庵」の

2009.05.26

「眠庵」の"そば会"に行ってきました!

神田「眠庵」のそば会をご存知だろうか。ご主人の柳澤寅さんが打ちわける8種類ものそばを食べ比べるというものだ。

年に数回、休日の昼と夜に行なっているのだが、ここ2年ほどすっかり通いつめている私が、初めてここ「眠庵」のそばを食べたのは、'06年夏のこと。集英社から文庫で出版したそばの本(『大人のそば屋はここにある!』)の執筆のため、編集者と訪れたのがきっかけだった。

そのユニークなシチュエーションにも意表をつかれたが、何よりもそばが印象的だった。「そばも穀類だったんだ!」当たり前のことなのだけれど、その事実を、柳澤氏の打つそばが再認識させてくれた。そう、彼の打つそばは、"麺"としてではなく、"蕎麦"という一つの穀類を食している実感をヒシヒシと舌に伝えてくれるのだ。

産地の異なる2種のそばを味わえることも、そば偏愛者の私の心をくすぐった。取材後も足を向けること数回。そのうち、「そば会」なるものが存在することを耳にし、早速参加したのは、その年の暮れだっただろうか? 以来、ほぼ皆勤賞。入院していた時でさえ、食べにきてましたからね。外出届けを出して。

というわけで、ゴールデンウィーク初日の今日も、"そば会"、行ってきました。

定員は約10名。多い時でも12~13人が限度。小さな店ですから(その小ぢんまりとしたところがまたいいンですが)。開始はだいたい6時頃。といって、すぐにそばが出てくるわけではなく、6時頃から集まり、ワイワイやりながら、皆さん、酒を飲み交わすンですね、これが。中途から参加の私ゆえ、いつ、どんなふうにして、こういうスタイルになったかは不明なのですが、この会には暗黙!?のルールが一つ。

参加者は各々、酒か肴か、何かしらを持参することになっている。いえ、決して、強制ではなく、どうやら客の方からの自然発生的現象のように思われる。けれども、手ぶらだと少々肩身が狭い。まぁ、柳澤さん家で、参加費3,000円の手打ちそばパーティをやるから、みんなで何か持ちよって楽しもうよってノリでしょうか。で、いいお酒が集まってる(みたいな)ンですよ。

お酒に関してはシロウトの私でも、目をひく銘酒がいろいろ。それをとっかえひっかえ、皆さん、酔いもまわってだんだん和気あいあいのいいムードになっていく。中には、そばが目的なのか、酒が目的なのか、わからない人もいたりして・・・。

私も、好奇心がうずくのか、飲めないなりになめる程度にいろいろ試してみたりして・・・。店側からは、自家製のお豆腐とおからがお通しとして出るのみ。あとは参加者皆さんのおもたせがテーブルを賑わすわけで、こちらも種々様々。チーズあり、蛸の桜煮あり、漬物ありと、この脈絡のなさもまた痛快だ。

そうこうして盛りあがっていくうちに、柳澤氏登場。彼は、その間、ひと眠りしていることが多い。何といっても、8種類ですからね、8種類。それらの個性が、各々際立つよう打ちわけるために徹夜して、粉を挽くところからつきっきりなのだ。

さて、いよいよそばの出番だ。1枚目の岩手在来種は、啜りこむほどに風味豊かな、野太い味。

moriwaki090526-1.jpg '08年岩手産の在来種そば

対して2枚目は、"春の息吹"のネーミングそのままに優しくたおやか。それでいて香り高く、まさに春の息吹そのもの。柳澤さんによれば、在来を選抜したそばらしい。

続く長野信濃一号は、これぞ"そば"といった正統派の味わい。やや細めに打っているせいか、のどごしも涼やかにスルスルと入る。何もつけずとも(どのそばも大抵そうなのだけれど)十分美味。旨味強く、スッキリと均整のとれたそばだ。

moriwaki090526-2.jpg '08年長野産の信濃一号そば

4枚目は、グッと飛んで鹿児島。かのや在来種だ。こちらは、うってかわってややねっとりとした甘みを感じさせる。出す順番も、柳澤さん、チャント計算しているところがまた心憎い。

moriwaki090526-3.jpg '08年鹿児島産のかのや在来種そば

続く5枚目。栃木は益子の常陸秋そば。今日のは心持ち柔らかめな印象だった。

で、お次は福島。会津の香り。第一印象はアッサリ。だが、後から甘みがグングンと広がっていく・・・。というか、甘みが次第に舌に蓄積されていくような力強さを感じるのだ。

さて、ここまでのそばは、すべて'08年度産。去年の秋に収穫されたものだ。が、次に出てきた徳島の徳島在来種のそばは、'06年に収穫したもの。つまり、2年以上寝かしたそばなのだ。"そばは新そばに限る"、この定説を覆す熟成そばの話を聞いた時は、正直、私も半信半疑だった。けれども、そうした先入観や邪念は、その、いかにもそばらしい熟味を増した一枚を食べて吹きとんだ。

moriwaki090526-4.jpg '06年徳島産のかのや在来種そば

以来、すっかり、熟そば派?になってしまった。もちろん新そばも好きですヨ。でも、どちらか一つを!と言われたら熟成された方をとるかも・・・。だからといって、何でもかんでも寝かせればいいってものでもないらしい。加えて、保存の仕方。これが大きくものをいうことは言わずもがなである。で、この徳島のそばだが、かなり甘みが増している。ボディのある旨味が印象的なそばだ。

ここでガツンと来た後の〆めは、いつもと同じ福井産。越前大野在来種だ。

moriwaki090526-5.jpg '07年福井産の越前大野在来種そば

これは'07年度産。けれども、とても1年半も寝かしているとは思えないほど、緑がかっている。新そばですと言われたなら、誰しも信じてしまうに違いない。それぐらい、せいろに盛られたそばは、初々しいまでの緑色。そして、ややもっちりとした歯触りのそばを啜りこめば、上品な甘みが優しく口中に広がる。まだ草の香りが残っているような、青い香りを感じたのは気のせいだろうか。

いつも、そば会の〆めは、この福井・越前大野のそばなのだが、いつ食べても、本当に旨い。それまでの7枚も、かなりレベルが高いと思われるのだが、この福井のそばは、それらを凌駕するといってもいいだろう。〆めにふさわしい逸品のそばである。

そばを食した後は、三々五々、解散。柳澤氏といっしょに飲みあかす!?方もチラホラ。ちなみに、会費は3,000円です。

眠庵
東京都千代田区神田須田町1-16-4
☏03-3251-5300
定休日/日・祝
営業時間/12:00~14:00(月・水・金を除く)、17:30~21:00
http://www.nemurian.net/
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COLUMNIST

森脇慶子

フードジャーナリスト

「dancyu」をはじめ、数々の雑誌やメディアのグルメシーンで活躍する、フードライターの草分け的存在。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩きに邁進。その小柄な体からは想像できないほど強靭な胃袋の持ち主。「東京最高のレストラン」の採点者を務めるなど、その舌に絶大な支持を集める。

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