2009.09.10
国産モッツァレラを求めて「チーロ・エスポージト」へ!
「これはね、宮崎で作っているモッツァレラチーズ。凄いでしょ。今朝、作ったばかりのチーズが、その日の夕方には、店に届くんだからね。」
初めて、そのモッツァレラチーズに出会ったのは、麻布十番「ヒロソフィー」だった。テーブルに自ら運んできた、ミニ大福ほどの大きさのモッツァレラを前に、山田宏巳シェフは、チョッピリ得意気にそう説明したのだ。
「エッ、じゃあ、そこに水牛もいるの?」
思わず、声がうわずったのは私だけではない。
「もちろん! 宮崎の山の中でね、飼ってるよ。今、ヨーロッパからは蹄のある動物は輸入できないから、オーストラリアの牧場から南イタリアの水牛を輸入しているンだよ」
山田シェフにとっては、かなり思い入れの深い食材なのだとか。しかし、彼は、本当においしいものには目のない人だ。その情報力とバイタリティには、私も負ける。
さて、仄かにバターの香りがするアンチョビソースがかかったモッツァレラは、確かに食感といい、味の濃さといい、咀嚼した後鼻に抜ける風味といい、私がこれまで食べてきたそれとは全くの別物。もちろん、イタリアの輸入物しか知らない私だから・・・ではあるけれど。
それにしても、一体、どんな人が、日本で水牛を飼ってモッツァレラを作ろうなんて、ある意味無謀とも思えることを始めたのだろう。ムラムラとライター魂が湧いてきた。
「それに水牛にも会ってみたい・・・。」
チョッピリ、ミーハーな想いも手伝って放ったひと言に、D誌のW女史が共鳴。
私のフランス滞在中に、早や取材が決定したのである。
宮崎県児湯郡都農町。空港から車で約30分ほど(だったと思う)の、こんなところに?と思うような山の中に、目指すカゼイフィーチョ「チーロ・エスポージト」はあった。
「ここらへん・・・だよね」
同行のW女史、Oカメラマンと共におそるおそる敷地内に入っていくと。
「はじめまして。竹島です。大丈夫でしたか」
爽やかな笑顔を浮かべながら、ラグビー選手のようなガッシリとした体躯の青年が、向こうから歩いてきた。竹島英俊さん、その人である。
東京国立で生まれ育った竹島さんが、親の跡を継いだガソリンスタンドの仕事をやめ、一冊の本に導かれるようにして、単身、イタリアへと旅立ったのは、2004年、31歳の時だ。
「自分の死に場所は、ここじゃない。ずっとそう思っていました。何か、土から作るような仕事をしたい・・・と」
そんな時、本屋で何気なく手にした『イタリアの田舎暮らし』(たしか・・・)なる一冊が、竹島さんの人生を変えたのだ。
「(自分が求めていたものは、)これだ!!って思ったンです」
でも、並みの人間なら、思うだけで終わる。けれども、竹島さんは、ことばもわからずコネもないイタリアへと、本当に、のりこんだのである。
そして、持ち前のガッツ精神で、かの地のカゼイフィーチョ(チーズ工場)に雇ってもらうことに成功。モッツァレラチーズの作り方や水牛の飼育法をその身に叩きこんで、2007年、帰国したという。まるで熱血少年漫画の主人公みたいな人だ。
現在、牧場には、オス2頭、メス18頭、仔牛12頭の計32頭が放牧されている。初めて間近に見る水牛は、想像以上にでかい。生後1年目の仔牛で400kgもあるそうだから推して知るべしだろう。なのにお乳は、1頭につきわずか7ℓ、牛乳の約1/5以下しかとれない。そう、とっても、貴重なお乳なのだ。
放牧されている水牛くん
で、水牛は意外に人なつっこい!? 特に仔牛は好奇心旺盛でグングンそばに寄ってくる。放牧している様子を撮影していた時、あれよあれよという間にそばに寄ってきて、鼻先でグイグイとおされてしまった。さすがに成牛ともなると、用心深くて寄ってはこないけれど。ちなみに水牛たちは、短角牛と同じく自然交配なのだそうだ。
生後1年。これでも仔牛
さて、件のチーズ作りは、夜中の2時、3時頃から始まる。夕方までに大阪や東京のレストランに届くようにするためには、朝10時までには航空便に載せなくてはならないからだ。
<チーズ作りの詳しい様子は、今月発売の『ダンチュウ』をご覧下さいませ>
できあがったモッツァレラチーズは、つやつやとした光沢を放ち、まるでつきたてのお餅のよう。見るからにおいしそうだ。早速、撮影&試食♡ 出来たてのモッツァレラは、東京で食べた時よりも更に、グッと身がしまっている。かむと、キュッキュッときしむような音がするぐらいだ。ミルクの味が濃密で、ピュアな旨味が何ともいえない。
水牛のモッツァレラチーズ
このモッツァレラもおいしかったけれど、モッツァレラを作ったあとの乳清を再利用して作るリコッタが、また、感動的! 作りたてのそれこそまだ温かなリコッタは、おぼろ豆腐のよう。甘く、優しいミルクの味がどこか懐かしく、忘れられないおいしさでした。竹島さん曰く「これは、出来たてでないと食べられない味」とか。それだけでもここまで来たかいがあるというものだ。
ちなみに、この竹島さんのモッツァレラは、この「ヒロソフィー」の他、青山のフレンチ「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」、大阪のレストラン「カハラ」、イタリア料理店「ポンテ・ベッキオ」、青山のピッツェリア・トラットリア「ナプレ」などで頂ける。
現在は、授乳量が少ないため、生産量がまにあわないが、9月末以降、めでたく仔牛が誕生すればそれも回復。10月末以降、通常の生産量に戻ればレストラン以外のネット販売も(ごくわずかだが)再開する予定とか。ゆくゆくはヨーグルトも作る(水牛のヨーグルトは超旨いとは竹島さん)そうだから、こちらも乞うご期待。
森脇慶子
フードジャーナリスト
「dancyu」をはじめ、数々の雑誌やメディアのグルメシーンで活躍する、フードライターの草分け的存在。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩きに邁進。その小柄な体からは想像できないほど強靭な胃袋の持ち主。「東京最高のレストラン」の採点者を務めるなど、その舌に絶大な支持を集める。