2009.12.04
アットホームな広尾の「春秋」でいろいろと。
久々に、広尾の中華料理店「春秋」で晩ごはん。
この春、炒飯取材の下見に訪れて以来だから、およそ半年ぶりぐらいになる。
中華包丁の取手もユニークな扉を開けるとマダムの明るい「いらっしゃいませ~」の声が出迎えてくれる。厨房では、ご主人の宮原さんがいつもの穏やかな笑顔で軽く会釈してくれる。
いいなぁ、この空気。アットホームで温かい。レストランに来たっていう緊張感よりも、知人の家にご飯を食べに来たような気分。久しぶりの来店でも、ふっと馴染みの顔になれる。
この店には、いわゆるメニューがない。おまかせのみ。いちおうその日の基本のコースはあるのだけれど、客の年齢や好み、お酒を飲むか飲まないかなどをマダムがチェック。量やメニュー内容を調整しつつサービスしてくれる。
「今日はちょっと軽めに」とか「野菜をたっぷりめに」など、こちらの要望を先に伝えれば、それに見合ったコースを組み立ててくれる。
メニューがないということは、裏を返せば、こちらの我儘をある程度聞いてもらえるということでもある。
今日は、少しづづいろいろ出してもらうことにした。
まず、最初に運ばれてきたのは"棒棒鶏"。
ポピュラーなメニューだけれども、見るからに丁寧に作られていることがわかる。切り方からして繊細だ。
ねっとりとしたゴマダレは、コクがあり、甘さは控えめ。しっとりとやわらかな蒸し鶏ときゅうりのみずみずしい食感が、そのコクのあるゴマダレと品良く絡む。何気ないけれど、こういうところに店の実力が伺える。
棒々鶏
続いて、中がトロトロの半熟ピータン。そして季節の味、上海蟹が登場。まずは老酒漬けだ。やや小ぶりながら、味がよくしみて、殻までしゃぶりついてしまいそうなほどおいしい。カニみそはトロッ、身はネットリ、ヌメリとして独特の食感がたまらない。
半熟ピータン
続いて、揚げたての"生カキの湯葉巻き揚げ"。パリッと揚がった湯葉をひとかみすると、中から火傷しそうなほど熱々のカキがとびだした。外はサクッと揚がっているのに、カキは半生。まさに絶妙な火の通し加減だ。海のエキスが口いっぱいに充満する。
生カキの湯葉巻き揚げ
そこに、今度は"スッポンのスープ"である。具は何も入っていない。クリアなスープが小碗に入っているだけなのだけれど、れんげでスープをすくおうとすると、かすかな抵抗感―とろみがある。口にすれば、何ともいえぬ滋味が身体全体にしみわたるように広がる。
マダムによれば、「スッポンをネギや生姜と共に7~8時間かけてじっくり蒸したスープ」だそうで、だからこその、このクリアな味が生まれるのだろう。
スッポンのスープ
"ナマコの蝦子煮込み"は、スタンダードな上海料理の一品。ここの料理は、よく和風っぽいと言われるけれど、この一皿はベーシックな上海料理の味がする(と思う)。油もしっかり使っている。でも、どこか軽い。その軽さが和風っぽさを感じさせるのかもしれない。
ナマコの蝦子煮込み
7品目は"上海蟹の蒸しもの"。
今度は、オス。きれいにむしって甲羅に盛りつけてあるので実に食べやすく、白子のねっとり感がたまらない。クセになりそうだ。
上海カニの蒸しもの
あっというまにたいらげたところに運ばれてきたのは"豚スネの煮込み"。ポロリと肉が骨からはずれるほど柔らかく煮込まれ、甘さもほどほど。一口なのが恨めしいほど旨い。
豚すねの煮込み
"白身魚と黄ニラの炒めもの"でひと息ついて、いよいよお待ちかねの"フカヒレ"である。
「今日は、姿煮ではなくて土鍋煮込みにしました」そう言ってマダムが運んできたのは、スッポン鍋のように大きな土鍋。ふたをあけると、グツグツとおいしそうな湯気があがる。中には、フカヒレがたっぷり。
姿煮を作る時やフカヒレを戻す時に出る切れ端やくずれたフカヒレを使っているそうだが、それにしてもずい分と入っている。全部合わせたら2枚分は入っているのでは? と思われるほどの量。中には、くずれとは思えないほど太い繊維のフカヒレも入っていて、ちょっと得した気分。上海料理ならではのやや甘めの味付けながら、決してくどい甘さではなく、ソース全体のコクと旨味にしっかりと支えられ、奥ゆきのある味わいを醸し出している。
半分はそのまま食べ、残り半分はごはんをもらってフカヒレあんかけごはんにして食べる。いくらでも入ってしまいそうだ。〆の食事は炒飯にするか、青海苔そばにするかで迷ったあげく、少しづづ両方食べることにした。
ネギ炒飯は、文字通りごはんと卵とネギのみの潔さ。
ご飯のあまみ、卵の旨味、ネギの風味が混然一体となって、これ以上何もいらないと思えるほど旨い。いろいろごちそうを頂いたあとのコースの〆くくりとしては、格別の逸品。和食で言うなら〆はシンプルに白飯でといったニュアンスだろうか。汁もの代わりに、青海苔そばをほんの一口。ころらもアッサリ。スルッと入る。麺は別腹......である。デザートの杏仁豆腐を食べて、コース終了。食べ終わったそばから、またあの土鍋のフカヒレを食べたい!と思った私でした。
東京都港区南青山7-14-5
☏03-3407-4683
営業時間/月~金18:00~21:30、土・日・祝18:00~21:00
定休日/なし
森脇慶子
フードジャーナリスト
「dancyu」をはじめ、数々の雑誌やメディアのグルメシーンで活躍する、フードライターの草分け的存在。取材はもちろん、プライベートでもひたすら食べ歩きに邁進。その小柄な体からは想像できないほど強靭な胃袋の持ち主。「東京最高のレストラン」の採点者を務めるなど、その舌に絶大な支持を集める。