2011.12.02
バッキンガム宮殿敷地内のギャラリーで、
100年前に南極を目指したイギリスの男たちの写真展。
タロとジロで有名な日本の『南極物語』は、また最近、キムタク主演のテレビドラマとなって放送されているようですが、今週は、100年前に南極を目指したイギリスの男たちの展覧会のご紹介を。バッキンガム宮殿敷地内にあるクイーンズ・ギャラリーで開催されている、『THE HEART of the GREAT ALONE: Scott, Shackleton & Antarctic Photography』がそれです。イギリスの海軍士官ロバート・ファルコン・スコットが隊を率い、「Terra Nova」(船名)で南極点到達を目指した探検(1910~1913)と、それに続いて、アーネスト・シャックルトンが「Endurance」号で南極大陸横断を目指した探検(1914~1916)を、同行のカメラマンによる写真で構成した展覧会です。
クイーンズ・ギャラリーは、バッキンガム宮殿敷地内に。
人類史上初めて南極点到達を果たしたノルウェー人のアムンゼンの名前は、小学校や中学校の教科書に出てきたことで記憶していらっしゃる方は多いかと思いますが、彼と同時期に、南極点到達を目指していたのがキャプテン・スコット率いる探検隊。アムンゼンには若干遅れをとったものの、スコット以下4人が極点到達を果たした後に、帰路で遭難し、帰らぬ人となってしまったのですが、アムンゼン隊とスコット隊の極点到達までの競争譚は有名で、その背景にはいろいろとあるようです。スコット隊は科学調査の意味合いが強かったので、それも遅れをとった一因ではとも言われていますが、彼らが持ち帰ったさまざまな資料が多く残されています。
展覧会カタログの表紙写真は、スコット隊に同行したカメラマン、ハーバート・ポンティングによる「Tera Nova」号。Herbert Ponting, The Tera Nova at the ice front, Cape Evans, 16 January 1911
科学的調査の意味合いも大きかった、そのスコットの南極点到達から100年を記念して開かれているこの展覧会。月並みないい方ですが、何と言っても、写真が物語る真実の威力に圧倒されます。南極の、美しく雄大にして、あまりにも過酷な、この世のものとは思えない自然を捉えた写真はもちろんのこと、隊のメンバーでもあった馬や犬たちやペンギンやアザラシなど南極の動物たち、そして、過酷な作業中だけでなく基地での隊員たちの素顔などが、余すところなく伝えられています。
氷の洞窟越しにTera Nova号を見るあまりに芸術的な写真。Herbert Ponting, Grotto in an iceberg, 5 January 1911
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
イギリス帰国後にポンティングがレクチャーを行った際の広告にも使われ、人気イメージとなって、ポストカードも作られたというペンギンの写真。
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
南極の活火山エレバス山。左下のソリを引く人間との対比でその大きさがわかります。Herbert Ponting, The ramparts of Mount Erebus, 1911
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
スコット隊に同行したカメラマン、ハーバート・ポンティングは、探検隊に本職カメラマンがオフィシャル・フォトグラファーとして参加する初のケースでもあったのですが(このことからも、スコットがどれほどこの探検に力を入れていたかが忍ばれます)、自ら"カメラ・アーティスト"と称するだけあって、単なる記録写真に留まらないアーティスティックな写真を残しており、こんな地でよくもこのような写真を!と、ただただ驚くばかり。彼は既に旅行カメラマンとして成功していた人で、日本にも何度か旅しています。
もちろん、シャックルトン隊に同行したカメラマン、フランク・ハーリーの写真がアーティスティックでないというわけでは決してなく、テクニック的に優れた作品を残しており、ふたりのカメラマンのアプローチの違いが見られて、それも見逃せない点になっています。
キャプテン・スコット(中央)43歳の、そして最後のバースデー・ディナー。かなりイケメンの士官揃い! ワインやチョコレートも添え、お行儀いい会食の感じがさすがはイギリス海軍と感心します。テーブル中央と、後方に配したソリ用国旗が、彼らの愛国心を物語っていますが、それが、彼らを駆り立てていたものなのでしょうか?
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
探検隊中に出会った中で最も美しいこの氷山に、ポンティングは撮影のため何度も戻り、真冬(つまりは1日中暗黒)にフラッシュをセットしての撮影も試みたとか。
Herbert Ponting, The Castle Berg, with dog sledge, 17 September 1911
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
冬は1日中真っ暗。それが3カ月続いた後の明るい日です。
Frank Hurley, The return of the sun after 92days, 1915
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
テレビやラジオはもちろん高性能の通信機器も、ゴアテックスやヒートテックのような軽量かつ体温保持機能のあるウエアも何もなく、あるのは南極という未知の世界だけ。そこを突き進むに必要な装備や物資も、今とは比較にならないほどの重量があったことでしょう。それでも、命を賭して挑戦した男たちのヒロイズムと勇気には、ふだんはヒーローものにはあまり興味のない私でも、やはり素直に感動、感服せざるを得ません。それが悲劇に終わったことで、さらに胸に迫るものがあるのかもしれませんが・・・と、何だか、陳腐な表現で自分が情けないですが。
南極と言えば、やはりペンギンに目がいってしまいますが、後方の氷山もスゴイ。
Herbert Ponting, Tabular iceberg off Cape Royds, 13 February 1911
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
南極点到達の写真。かなり疲弊している表情に胸が痛みます。もし、彼らが最初に到達していたら、表情はもっと違ったものになっていたのでしょうか? 左から2番目の隊員が撮影。Henry Bowers, At the South Pole, 18 January 1912
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
それにしても、こういう展覧会を見ると、未知の土地への興味こそが、大英帝国を築いたスピリットになっていることを痛感します。探検は、イギリス人のDNAに組み込まれているといっても過言ではないように思います。
南極探検には、当然、王室の関心と援助も欠かせなかったわけですが、展覧会の写真は、すべて同行のカメラマンから王室コレクションに寄贈されたもの。このクィーンズ・ギャラリーは、王室所蔵の美術コレクションを、その時々のテーマによって展示していくのですが、さすがは英国王室、すばらしいコレクションをお持ちです。前回ご紹介した現在ナショナル・ギャラリーで開催中のダ・ヴィンチ展で展示されている50点の素描のうち30点は、王室コレクションからのものです。比較的こじんまりしたギャラリーですが、何より、とても落ちついて鑑賞できるのがいいところ。バッキンガム宮殿には、有名な衛兵交替式を見にいらっしゃる方は多いかと思いますが(これはこれで必見です)、その際には、ぜひ、宮殿に向かって左手裏にある、このギャラリーも訪ねて見て下さいね。
シャックルトン隊のEndurance号が座礁。それを見守る犬たちは何を思っているのでしょう。顔が見えない後ろ姿に、余計、ぐっときてしまいます。Frank Hurley, The Endurance crushed between the floes, 25 October 1915
The Royal Collection © 2011, Her Majesty Queen Elizabeth II.
Images for use ONCE and ONLY in connection with the Heart of the Great Alone, at The Queen's Gallery, Buckingham Palace, October 21 - April 15. Images must not be archived or sold on.
いちばん最後に展示されているのが、死後8カ月後に発見されたスコットの遺体とともに残されていた、この国旗。展示を見た後、最後にこれに辿り着くと、イギリス人でなくとも胸に迫るものがあると見え、私の周りにいたヨーロッパからの観光客の皆さんも、しばらく、この前で立ち止まっていました。
なお、スコットの南極探検については、来年1月20日から、自然史博物館でも別の展覧会が開かれますので、興味のある方は、そちらもどうぞ。
開催中~2012年4月15日
The Queens's Gallery
Buckingham Palace, SW1A 1AA
開)10時~17時30分(最終入場は16時30分)
閉)12月25日、26日、2012年4月6日、4月16日~5月3日、10月8日~11月1日
入場料7.50ポンド
菅野美津子
フリージャーナリスト
「アンアン」など女性誌を中心にライター稼業をした後、96年に渡英。以来、ロンドン住まい、現在15年め。ライター、コーディネーター、翻訳/通訳者として、メディア全般で仕事中。